キミの誕生日
どうやら購入するケーキが決まったらしい。
見惚れてないで、自分も買おう。アイクはショーケースに近付いていくと、これだと決めていたケーキを指差した。可愛らしい苺のモンブランである。
「すまないが、これをひとつ」
「会計はどうしましょう」
「ああ……」
アイクがポケットから財布を取り出そうとすると、ちょっと待てとゲムヲがすかさずその手を掴んだ。支払いは俺に任せろ、とばかりに自分の財布を取り出し――
「やめろ」
これで買い物は済んだようだった。
ケーキ屋を後にすると、ゲムヲは他に何処か立ち寄る様子もなく歩き始めて。
「……ゲムヲ」
アイクはその背中にふと、声をかけてみる。
「どうしてこんなことをするんだ?」
お祝いにしたって、今までに祝われてきた彼らは何か大きな任務をこなしたわけでも、誕生日だったわけでもないのだ。どうせ、答えはしないだろうが。
と、ゲムヲが立ち止まった。振り返り、ちらっとアイクを見つめて。
それからまた、歩きだす。アイクも釣られて振り返ったがそこには街を行き交う一般市民の群れだけで、だとすればゲムヲは自分に何か言うつもりだったのだろう。
――それでも結局、言いはしなかったが。
街を離れるとこうも静かだったとは。浮かれた様子もなくただ淡々と先頭を歩くゲムヲを、アイクはその後ろを歩きながらじっと眺めていた。