キミの誕生日
「あら、いらっしゃい」
此方に気付いた女性店員が歩み寄ってきた。
何を聞いても口を開こうとしない、おまけにこうも黒一色なので覚えられてしまったのだろう。それでも女性店員が頭を撫でようと手を伸ばすと、ゲムヲはアイクの後ろにさっと隠れてしまったが。
「あ……保護者の方ですか?」
いつだったか、同じ間違いをされたような気がする。
「……まあ」
「やっぱり。よく似てらっしゃいますね」
何処がだ。
アイクが女性店員に捕まっている隙に、ゲムヲは傍を離れると店内をうろついては花を眺めていた。ちらっと見たが、色や種類に拘りがあるわけでもないらしい。
「……それにするのね?」
暫くして戻ってきたゲムヲは青いスミレの花を手にしていた。それを受け取って女性店員がレジに向かうのを、ぱたぱたと小走りで追いかけるゲムヲ。
「はい、メッセージカード。ラッピングするから待っててね」
そう言って女性店員が花を丁寧に包装している隙に、ゲムヲは台の上でせっせとメッセージカードを書いていた。アイクが覗こうとすると、隠されてしまったが。
その内容については大体想像がつく。が、肝心の意図が掴めないのだ。
「お父さまもよろしければどうですか?」
と、ラッピングを終えた女性店員が声をかけてきた。
断ろうと口を開いたが、直前で閃く。ゲムヲと同じあの不可解な行動を、そっくりそのまま彼に返したらどんな反応を示すのか。アイクは暫く店内を見回した後で、
「……じゃあ、あの花を一本だけ包んでくれ」