キミの誕生日



――数日後。

早朝の稽古を終えて廊下を歩いていたアイクは、ちょうど部屋から出てきたゲムヲとすれ違った。真っ直ぐ玄関へ向かう辺り、これから出かけるのだろう。

ふと、こないだの出来事を思い出す。彼はどうして不定期にあんな行動をするのだろう。そして、あのメッセージカードの意味も……アイクは立ち止まると振り返って。

「ゲムヲ」

たったひと言、そう呼び止めた。

ぴたりと立ち止まり、ゲムヲは振り返る。どう聞き出そうか迷ったが、ここは問い質すより彼の行動を見張った方がいいかもしれない。

「これから出かけるのか?」

その場から動かないまま、まずはそれだけを聞いてみる。

相変わらず口を動かそうとしない彼は少しだけ首を傾げたが、アイクの元へ歩み寄ると服の裾を掴んだ。くいくいと引いて、見上げる。

「……迷惑じゃなければ」

そう返すと、ゲムヲはこくりと頷いた。

どうやら最初のあれはちゃんと“一緒に来る?”の意味合いで、会話も成立していたらしい。喋らなくとも何となく分かるのは、寡黙同士通じ合っているからか。


――レイアーゼ繁華街。

朝も早いとはいえ店が開き始める時間帯でもあるので、いつも通り人で賑わっていた。ゲムヲは不定期で行うあれの為にここを訪れていたのだろうか。

小さいので、人混みに呑まれてもがく彼の姿が容易に想像できる。

「……ん」

こっち、と手を引いてゲムヲはとある店へ向かう。色とりどり、鮮やかで美しい様々な花が並ぶフラワーショップだった。まずはここで買い物をするようだ。
 
 
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