仔カラスの世界
この体では、戦えない。
役に立たないこの体では貢献できない。けれどそれ以上に。
……それ以上に。
いつからだろうか。自分より、誰かを想うようになったのは。
自分はいい。代わりに誰かがそうであれば。そう願うなら彼女の望みを叶えてやることも等しくそれではないのだろうか。
そう思っていたはずなのに。
「あら」
老女が声を洩らした。
「お日さまが落ちてきたわね」
見上げれば日が傾いて空は橙色に染まりつつある。
「そろそろ帰りましょうか」
帰るって。
「どうしたの? 坊や」
だって、あの場所は。
「――お家に帰らないの?」
なんだろう。その瞬間自分の中で何かが弾けたような気がした。
人間兵器の育成施設。そう思っていた其処には。
いつの間にか。