仔カラスの世界



「餡子が付いているわよ」

そう言って老女は死角からハンカチでダークファルコの口端を撫でた。

完全に子供扱いされている。この形(なり)だから多少は仕方ないにしても、言えば自分で拭うのに。無意識にむっとした顔で見上げてすぐに逸らす。

それを見た老女はふふっと笑った。

「私の孫にそっくり」

やっぱり。妙に構ってくるかと思えば。

「……しなくても子は学ぶって言っているのにね。お勉強お勉強、って」

当然のこと、興味の湧かない話題だった。

人間とは非常に貪欲で強欲な生き物だ。自身が得られなかったものは次世代に託してでも手にしようとする。身勝手で時には傲慢。もちろん一括りにするでもなく、そうでない人間もいるだろうが近頃は大半がそうやって目に映る。

「ねえ、坊や」

老女は不意に言った。

「坊やさえ良ければ毎日でもこの公園に来て、会ってお話してくれないかしら」

これはまた。冗談でもなさそうなのだから返答に困る。

――この女性は寂しいのだ。親兄弟や夫は恐らくのこと他界、我が子は仕事だ何だと代わる代わる理由を付けて会いに来ず、愛しい孫でさえ勉強漬け。これからも、それはずっとそうかもしれない。


孤独。……久しく感じたことのない感情だった。
 
 
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