仔カラスの世界
本来であればこんなもの、片手に提げれるのに今のこの姿では両手で引きずらないぎりぎりの位置を保つのがやっとだ。幼児化による筋力の低下は地味にきつい。
ダークファルコはちらちらと景色を見上げた。周りの建物や人間が普段よりずっと大きくて気のせいか不安になる。今にでも崩れてきたり、襲いかかってきそうな、そんな世界。けれど自身は小さいから何処にでも潜り込んでそれこそ、何処にでも行けそうといった探究心、好奇心。ふと我に返って振り向いた時、笑いかけてくれる人がいる安心感。
生まれた時から兵器だった。
きっと、二度とは味わえないだろう。
「何処までですか」
「そうねぇ。この信号を渡って少し歩いた先の、公園を過ぎたところよ」
赤信号。待ってる間は当然日に当たってしまうので、横断歩道を離れた箇所から車が通らない隙を見計らって渡ってしまうのがリスク最小限であり手っ取り早いのだが、子供と年寄りでは渡るのにも時間がかかるし、クラクションの鳴り響くのが目に見えている。ここはおとなしく待機を選んで信号の赤を見つめた。
「坊やは本当にいいこねぇ」
青になった。カッコウの声に似た音が響き渡る。
「そうですか」
「ええ。お父さんもお母さんも居ない傍でここまで出来ないわよ」
ダークファルコは歩き出す。
「近頃の子供だって大人は皆怖い怖いって寄り付かなくって。親御さんも、警戒心が高いのかしらね。相手が例えお爺ちゃんお婆ちゃんでも良くない目で見るし……ああ、こんなこと言っても坊やには分からないわね」
平日の昼間でも街中はがやがやと忙しない。
「そうですね」
ダークファルコは横断歩道の半ばで紙袋を持ち直し、そしてまた、歩き出す。
「……でも、人には優しくしろと教えられましたので」
いいか! 表の世界の一般市民には優しくしろ絶対に危害を加えるな!
「あらまあ」
老女は肩を竦めて笑った。
「素敵なご両親なのね」