仔カラスの世界
疑うのは当然好きではないが、可能性があるとして三柱。
今でもそれなりに慕っているだけあって気が進まないがいつまでもこのままというわけにもいかない。ダークファルコは何もない壁に向かって片手を翳した。けれど顔を顰めてもう一方の手も同じように。
上手くいかない、これも幼児化した影響だろうか。力は弱いが、それでも少しずつ空間が渦を巻いて口を開き始めた。もう少し、そう思っていたその時。不意に足下に何かが転がってきてぷつんと集中力が途切れてしまう。
……林檎?
何故こんなものが? 屈んで拾い上げるとまた転がってきた。光差す歩道の側を見ると先程の老女がもう片方の手に提げていた紙袋を返したようで道行く人に何度も頭を下げながら拾っている。これがまた、道行く人は誰一人拾おうとしないのだから目を丸くした。人間という生き物はこうも自分のことばかりなんですね。
「……、」
ただの単なる気まぐれだ。
林檎に蜜柑に、何をいくつ買ったのだろう。そんなことを思いながらダークファルコは歩いては屈み歩いては屈んで、再び歩道へと向かっていった。……
「ありがとうねぇ、坊や」
あくまでもただの気まぐれだと心の中で言い聞かせる。
ダークファルコは集めた果物を紙袋に詰めて返した後に見送った先で同じことを繰り返されても面倒なので途中まで同行することにしたのだ。さっき返したのだって、これだけ多くの人が行き交う道だ。彼女のようにゆっくりと歩いていては急ぐ人間も避けられない。だから気にしないというのは傍目に見ても無慈悲だが。
「お母さんは?」
不意に投げかけられた質問に心なしか目元に影が差した。
「いえ」
「じゃあお父さんと一緒かしら」
一瞬あの神様の顔が頭に浮かんだが違うだろうな。
「……いえ」
人間兵器に家族なんているはずもない。