仔カラスの世界
渦巻くホールが消失したところでダークファルコはようやく立ち上がった。
痛みは、ない。だけど何だろう、ふらふらしてしまう。安定感がない、まるで自分の体じゃないかのようで自由に動かせない。後遺症とは違う。そう深刻なものではなく例えるのであればそう、その体にまだ“慣れていない”かのような……
念の為に服を捲って傷口を確かめてみたが、これが綺麗さっぱり無くなってしまっている。摩ってみるもそんなものは初めから無かったとでもいうようで。
傷が修復したというのなら、それはそれで構わない。死なずに済んだのだから。
引き換えに。
解消しなければならない問題がひとつ。
壁伝いに歩いて光差す世界へ。歩道に出るとすぐ目の前を自転車に跨る男子高生が複数人過った。その反対側から子供の手を引いて主婦が歩いてくる。一歩、踏み出すとサラリーマンの男にぶつかりそうになった。じろり、冷たい目線を受けて小さな不快感が募る。右に視線を返すとまた自転車がやって来たので飛び退いた。過ぎる直前でベルを鳴らされ、それでは遅いのではないかと内心ツッコミ。
太陽が暑く照っている。空を見上げて。……外の世界に出た時は基本的に影を頼りに行動するのだが今回肌に焼けつくような嫌な痛みを感じられない。感覚が麻痺してるのではなく、本当の意味で何も感じないのだ。
洒落た服屋の前で立ち止まって、そろそろとショーウィンドウに近付いた。なるべく見ないように伏し目がちで。硝子に手を置いて顔を上げる。
「……、」
やっぱりそうだ。
不思議と驚かなかった。冷静に事を受け止める。これは――人間の子供の姿だ。