仔カラスの世界
「……死んでいる」
頭の中がぼやぼやする。
「ああいや、これは」
暗かった視界がゆっくりと幕を上げた。
「……え」
変わらない、暗がりの路地裏で。奇跡的に鉢合わせた、ダークトゥーン。
違和感はすぐにやってきた。膝をついて接近したその姿勢のままかくんとあざとく小首を傾げて見つめる彼にそんな声を洩らして。確かに自分は地べたに座り込んでいる、だけど彼との視線がこうも平行に交わるなんておかしい、と。
視線逸らさないままにぺたぺたと、自身の頬とそれから肩に触れてみる。
はっと気付いて腹部に負った傷を探った。
「……そんな」
傷が完全に修復されている――?
「トゥーン」
何もない空間より突如として現れた、渦巻く紫色のホールから青年が降り立つ。
「……なんだその餓鬼は」
ダークリンクだった。
「分からない」
「あぁ?」
餓鬼を拾って実験体、つっても今じゃ不要だしなあ。
「知らねえなら放っとけ」
帰るぞ、と続けてダークリンクは同じホールへ踵を返す。
ダークトゥーンは立ち上がったが暫く見つめていた。頬に他人の血液を付着させた残虐性のある彼らといえど興味の対象には良くも悪くもなり得なかったのか、
「了解した」
すっと目を細めて逸らし、間もなくして去っていった。