仔カラスの世界
自分でも情けないことに目を瞑り、縮こまっていた。
……しかしいつまで待っても痛みが襲ってこないことを不審に思って片目からそろそろと解放、そして視界に飛び込んだ光景にはっと目を開く。
「……フォックス?」
紛れもなく、彼だったのだ。
そんな彼が目の前で一体何をしているのかと思えば。片膝を付いた姿勢で腕を差し出し、そしてその腕は――あろうことかあの野良犬に容赦無く噛みつかれて多量の血を流し濡れていたのである。
野良犬は、食いちぎろうと頭を振ってくる。が、不意に小さく目を開いた。途端にか細い声で鳴いて口を離し、後退り。
ざわざわと。
これは、殺気だ。
「ったく」
野良犬が走り去っていくのを見届けながらダークフォックスは呆れたようにそんな声を洩らした。対するダークファルコは、もう何処から突っ込めばいいのか。
「……フォックス」
「何処行ってたんだよ、馬鹿!」
目を丸くした。近所迷惑にも程がある。
「匂いを辿ってみりゃ血ぃしか残ってねえし! 匂いもそこで切れてっし!」
「……探してくれてたんですか?」
「当たり前だッ!」
ああもう、いちいち耳に響いてうるさ、
「心配したんだからな!」