仔カラスの世界
「っ、」
程なくして予感は的中する。
……道の先でゴミ袋に噛み付いては引きちぎり、中身を漁っていたのは紛れもない大型の野良犬だった。何かを思うよりも先に目が合ってしまう。こうしてまだそれなりに離れているというのに大きく映るのだ、実際に目の前まで来ればもっと大きいことだろう。ダークファルコはじり、と後退して。
そりゃあ、新鮮な肉が惜しいでしょうね。低く唸って狙いを定めてくる辺り、そういった行為にも手慣れた様子。常習犯といったところか。
存外、怖くないものだ。何ていったって自分には“力”がある。
確かに子供の形ではあるが、あの時だって元の姿と同じ能力の使用が出来ないわけではなかった。弱くて構わない、大きく見せて脅かしさえすれば。
対象を見据えて両手を静かに突き出す。やがて、双眸に赤が灯れば辺りが暗いのも助けて能力はすんなりと発動した。足下の影が伸びて、不意に地面から飛び出す。
低く姿勢を取る犬に鋭利な先端を構えて、そのまま――
届かず、消滅。
「……え」
自分もまさかこの展開は予測していなかった。
途中まで出来て、どうして。これもこの形である影響なのか。いや、それよりも。
「っ……」
余計に挑発してしまった。執拗に吠えているが、近くの民家からは誰かが出てくる気配もない。こういう時に限って自分の安全ばかり。全く、人という生き物、
――来た!
逃げるしかない、そう踏んで背中を向けたが直後に足が縺れて転んだ。
異常な疲労感が無慈悲に襲う。
こんな。
死ぬのなら、せめて――