仔カラスの世界




――そんなに信用できないってなら、一人でやって勝手に死ね!


あの時の言葉が、いよいよ現実味を帯びてきた。

「はあっ、はあっ」

息を切らして飛び込んだ路地裏。虚ろに目を動かせばさっきの男たちが見当違いの方向へと駆けていくのを視界に届けて。歩を緩め、壁に背を預ける。

ずるずると。腹部に負った深い傷を庇いながら座り込んだ。


視界がぼやけるのを感じる。


まだ、真っ昼間なんですけどねえ。ダークファルコは建物と建物の間から窺える青空を見上げ、苦い顔ではあっと息を吐いた。直後、ゴホッと、吐血。

――戦場の真っ只中、相方のダークフォックスと、早い話が喧嘩別れをした。任務遂行中、何度言い付けても直らない、戦場において足を引っ張る彼の悪い癖を今日も同じように指摘したのだが、何分タイミングがよろしくなかった。血を吸った後では誰も気が立つ。それで冒頭のあの台詞だ。

……やれやれ。本当に、死んでしまうかもしれませんね。

腹部だけではない。右足の太腿と足首にも一発ずつ、銃弾を撃ち込まれてしまっている。危うく蜂の巣にされるところだった。黒蜜なんてどうかとは思いますが。


心臓の音が、普段より響いて聞こえる。


ここで意識を手放してはまずい。息があればさっきの男たちが生かしてはおかないだろう。何せ、ターゲットの親玉を殺した張本人。どんな関係下にあるかは知れずとも慕っていたことは確か、でなければここまでしつこいはず、ない。

ゲホゲホと咳き込んで。


……揺らぐ。


瞼が上がらない。眠気が無慈悲に襲いかかる。血が、温かい。

最後に会いたかったのは誰だっただろう。
 
 
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