君が為
「……は」
鼻で笑う声にリオンは大きな耳を跳ねる。
「一体どんな親から教育されていればこうも自由奔放な馬鹿が育つものかと思っていたが」
まさかの開幕煽りである。依然としてサイコノイズによる妨害は継続されており得意の能力で本心を覗けない状況の中リオンはぎくりとしてユウと両親とを交互に見る。
「納得した。これで心置きなく言ってやれる」
嫌な汗が首筋を伝うのが分かった。
「ゆ、……ユウ……?」
いいのよ。帰ってきても。
そうしたらまた家族四人仲良く暮らして──
「……こいつを」
ユウは咳払いして姿勢を正すと改めて。
「ヴィオレスタの長男を私の伴侶として将来的に迎え入れたい」
、え?
「……ほー」
「あら、まあ」
夫婦の腰掛けたソファーの後ろから背凭れに腕を掛けながら興味があるのかないのかどっち付かずの声を漏らすイーシスと特徴的な垂れ目をまん丸にして驚いた様子のラフィーユ。
「結婚をされるの?」
「将来的な話だと言っている」
そう返したユウが溜め込んでいた息を深く長く吐き出したのは緊張の糸がここにきてようやく解けたからである。鬼が出るか蛇が出るか、とまでは構えていなかった。気の抜けた顔が並ぶものだと踏んでいれば出てきたのは熊だの何だのと言った方がしっくりくるような相手である。
「ゆ、ユウ、……結婚、……伴侶って……?」
未だ状況を呑み込めずただただ疑問符が飛び交うばかりのリオンが服の裾を震える手で摘みながら訊ねれば対するユウは普段と打って変わって突き放すこともなく目を逸らしながら。
「二度も言わせるな。言葉の通りだ」
じゃあ。
……両親に会いたいと言い出したのは。
言いたいこと、というのは。
「おい。何をやっている」
携帯端末を取り出して弄り始めるイーシスを目にユウは不可解そうに眉を寄せる。
「ブランの資産を少々」
「金食い虫にでもなるつもりか」
「冗談。……あー、それより」
イーシスは端末から目を離さないまま。
「そいつ。どうにかしたら?」