君が為



何故、戻ってきた。

金輪際ヴィオレスタの土を踏むなと──


あなた。

せっかく戻ってきたのですから。


顰めっ面まで連れてきてさ。

深刻そうじゃん。


──捨てられたのか。


「、!」

扉を開く音に釣られて顔を上げればまず初めにイーシスが入ってきた。このまま元座っていた場所に戻っては次に入ってくるその人物が座れないと判断したのだろうソファーの後ろ側へと足を進めるイーシスに続けて一人の高身長の男が現れる。ユウはじっと目を見張った。

貴族のような藍色の衣服を身に纏ったその男は一言で言ってみれば強面で愛想が何一つ無い。パートナーの愛嬌ある振る舞いは母親から受け継いだものなのだろうと要らぬ想像をして。


ふと。違和感を覚える。


「こうして並んで座りながらお客さまと対面するだなんていつぶりかしら」

ラフィーユは嬉しそうに肩を竦めてはにかむ。

「夫のオルドルです」

彼女の隣に腰を下ろしたその男の眉間に寄せた皺がいつまでも緩まない。睨み返しているつもりもなかったがそのお陰で感じていた違和感の正体に気付くこととなる。

「どうかされましたか?」
「……いや」

ヴィオレスタの主人は他人は疎か外の世界の全てを嫌っている等と風の噂で聞いていたが──まさか"常にメガシンカしている状態"だとは思いもしなかった。彼自身の意思でそれを解除することも儘ならないのだとすれば一定の範囲内に足を踏み入れただけでも情報の全てを掻っ攫ってしまうだけの強い力が働いてしまうことだろう。それであれば噂が事実であれ納得がいく。


人間の本心ほど穢らわしく醜いものはない──


「本題に入りましょうか」

ラフィーユの催促にユウはリオンを横目に見るとゆっくりと息を吐き出した。
 
 
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