君が為
アンティークな古時計の針が時を刻む音。カップに紅茶の注がれる音──全てが厭に響いて耳に付く。どうぞと差し出された際に小さく鳴った磁器の音だとか表情を気まずそうに沈めてやけに大人しいこの男然り。水を打ったような静寂の中ではどうにも目立って仕方ない。
「それで」
ラフィーユはティーポットを置いて並んで座ったユウとリオンの向かいにゆっくりと腰を下ろすと膝の上に手を置きながら訊ねる。
「どういった用件でこちらに……?」
胸の内側を。
探られているような感覚。
「不躾だな」
足を組み直しながらユウが悪態をつけば。
「これが挨拶のようなものですから」
ラフィーユは取り繕うように笑う。
「そんで?」
その隣に胡座をかきながら座っていたイーシスは膝上で頬杖を付くという客人相手ではまず許されないであろう体勢で気怠そうに。
「わざわざクソ兄貴連れ帰ってきて何の用?」
兄弟仲はそれほど悪くないと踏んでいたが隣のこいつときたら先程から一言たりとも喋らない辺り見当違いだったか──いや。そんなことはこの際どうでもいい。最初にエントランスホールで見掛けた父親だろうと推測していた男が今この場所に居ないことがどうにも引っ掛かる。
「あの人は力が強過ぎるんです」
心を読んだのか否か。ラフィーユが言う。
「今は別室でお話していますよ」
柔らかく笑いかけながら。
「ね。りー君」