君が為
例えば。自分に未来を予知する能力が備わっていたならこういった事態を避けるべく視えた時点で全力で阻止したとさえ思う。
……それほどまでに。
笑い事でもなければ冗談でもなく。
「此処か」
地上界。──森林都市メヌエル。比較的賑やかで栄えた街から離れた場所に目的地はあった。
獣道などではない。整備された道を数十分ほど歩いてグリーンアーチを抜けた先。現れたのは焦茶色の煉瓦の造りとは対照的に白の格子窓が印象の立派な佇まいの洋風の屋敷。レトロだのクラシカルだのとお姫様気分で浪漫を感じるにはどうにも木々の生み出す陰りが邪魔をしていて、例えば真夜中にその屋敷を見つけたなら勝手な想像をして寒気を覚えたことだろう。
いっそ好都合である。知る人ぞ知る、心の中を透視する目を持つ、ルカリオの種族のその一家──ヴィオレスタの屋敷こそがそこだったのだから。
「ゆ、ユウ」
屋敷に踏み込もうとする一歩手前。まさしく玄関たる両開きの扉の前でリオンはおずおずと。
「本当に……入るのか……?」
ユウはひと睨みした。
「往生際の悪い。私の手を煩わせるつもりか」
とはいえ。珍しい反応には違いなかった。
いつもの彼ならあっけらかんとした態度で言われるより早く扉を開きそうなものだしそうでなくとも想い人に鋭い睨みを利かされたとあらばその目が良いだのたまらないだのと興奮に腰をくねらせそうなものなのだが。
「い、いや、……うぅん」
これである。
「さっさとしろ」
かといって甘やかせるでもなくふんと鼻を鳴らせば突き動かされるように。されど変わらず釈然としない表情を浮かべながらリオンは扉を開いた。