君が為
エックス邸。──食堂。
「……獲物を捉える蛇の眼が如く冷たい目……」
今日も今日とて飽き足らず。
「まるで絹のように美しく繊細な藤色の髪に透き通った白磁の肌……!」
肩を上下して興奮に荒く息を弾ませながら。
「突き合ってください!」
「死ね」
「あぁあっはぁんッッ!」
相変わらず。
「よう飽きんなぁ」
長々と容姿の称賛を頂いたが返した言葉はたったの二文字とオマケの念力制裁。それもこれももはや日常と化していて初めの内はわあわあと誰かしらが案じて駆けつけたものだが今となっては見慣れた光景ということで例え会話をしていても気を取られて途切れることすらない始末。
「何回壁の修理をさせるんですか」
それまで水仕事をしていたのであろう厨房の奥から現れたリンクがタオルで手の水滴を拭いながら呆れたようにぼやいた。ほんまやで、とお馴染み関西弁で嗜めるドンキーの横で腕を組みながら、意に介さずといった様子で鼻を鳴らすのは。
「ユウ」
不意に名前を呼ばれたが直後。
「っ!」
頭頂部に手刀。
「ああなるのも飼い主の怠慢なんだからね」
まるで人を寄せ付けない傲慢の象徴たる彼を相手に何の躊躇いもなくこんなことが出来るのも幼馴染みの特権といったところか。
「素直に聞くような相手に見えますか?」
「それはそうだけど」
庇うつもりはなくとも残念なことに正論である。リンクが言えばリムは途端に苦い顔をして言葉を詰まらせてしまった。
「ほんま親の顔が見てみたいわぁ」
親。……
「ゆうてなんか家庭の事情複雑そうやったけど」
「──おいリオン」
ユウが呼び付ければ先程壁に激突した衝撃で巻き上げていた砂塵の中からその人は飛び出した。
「何なりと!」
「……言ったな」
ふんと鼻を鳴らして。
「貴様の両親に会わせろ」
……え?
「う、うん……?」
「言葉の通りだ。言いたいこともある」
相変わらず腕を組みながら見下げた態度で。
「貴様の両親に会わせろ。今すぐに、だ」
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