黒染めシークレット
それにしても、今日の食堂はやけに甘ったるい匂いが広がるな……
「……よろしかったら」
そう思っている間にエプロンをしたゼルダが現れて、その台詞と柔らかな笑みと共に皿に積んだチョコレートクッキーをテーブルの上に差し出した。香ばしい匂いに誘われるようにして手を伸ばし、「どうも」と返してまだ温かいそれを口に運ぶ。
「ちょっとゼルダ! 火!」
「っいけない、」
厨房からピーチが叫ぶとゼルダは慌ただしく駆けていった。
大変だなぁ、と他人事のように。実際他人事であるのはさて置くとして、スピカは二個目のクッキーを得るべく手を伸ばす。
「あ、成功したんだ」
ちょうど狙っていたクッキーをカービィの手がさっと取り上げた。
「だって今日ってバレンタインじゃん。本業は男に任せててんやわんや」
スピカは厨房を遠目に見つめる。
「ま、成功する分には文句ないんだけど」
「朝からずっとか?」
「そーそー。んでこれがその五回目」
カービィは続けて二個目のクッキーを口に運びながら、
「ちなみにヨッシーは三回目であてられちゃって二時間突入」
泣きたいのはどっちだろうな。
「そんなに作って意味なんかあるのかよ」
「ほら、僕たちはともかく食べる人は食べるから」
一番出来が良いものを選んでラッピング、本命にプレゼントってわけか。
「そりゃ大変だな……」
頬杖を付いて返すスピカを横目にカービィはクッキーをかじる。