黒染めシークレット



くすくすと笑って口を挟んだのはダークファルコだった。

「てンめぇ……よくも貴重なイベントを……」
「おや。寧ろ太らずに済んでよかったではないですか」
「ふっざけんな! 俺は、俺はな――」

ダークフォックスはダークファルコを指差して、

「この日の為に二月の初めから禁欲してたってのに!」


暫くお待ちください。


「たんぱく質が豊富で美容にいいんだぞ……」
「最低ですね」
「血ぃ入れたお前に言われたくない」

頭部側面より回し蹴りの奇襲。薙ぎ倒されて蹴りを数発、踏み付けを数発。

結果、ぷすぷすと黒い煙のようなものをあげてうつ伏せに倒れたダークフォックスに向けてダークファルコは冷たく蔑む。お望みとあらばもう何発、これ以上の攻撃さえ与えかねない雰囲気のダークウルフに、ダークファルコは短く溜め息。彼の前ではリーダーに対して変な性癖を出すなとあれほど言いつけておいたはずなのに。

「……血といえば」

ダークファルコはころっと元の笑みを浮かべて、

「どうして何も入れなかったんですか?」

今回の騒動はチョコの中に“血”を混ぜて意中の相手に渡せば両想いになれるという根も葉もない噂話を彼らが鵜呑みにしたことから始まった。

それは、リーダーを誰よりも愛するが故。……なのに。

「随分と余裕がお有りですねえ」

誰よりも強い忠誠心とその裏に執着心を宿すこの男が何もしないはずなど。

「……だって」

ダークウルフは影を差して微笑した。

「両想いには不要な小細工だろ?」


温かく豊かな陽の光は、必ず何処かで冷たく深い影を落とす。


「……そういうことでしたか」

俺たちは、同じ。

「ホワイトデーにも噂話ねえのかな。こう、精液を……」
「後ろ後ろ」



end.
 
 
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