黒染めシークレット
攻め寄るがダークウルフは笑みを崩さない。
「この手だよ」
隙を突いて腕を掴み引っ張り出すと。
……ダークウルフの右手には所々に絆創膏が貼り付けられていた。ガーゼには赤い色を滲ませて、此方が眉を顰める程に痛ましく。あれでも手先器用な彼がどうしてというのも今日がバレンタインデーならばそれだけで納得がいく。
「……出せよ。作ってるんだろ、お前も」
ダークウルフの表情に影が差した。
ま、今更黙りを決め込んだところで考えは読めている。ここで鉢合わせるまでに何度同じ手を見せられたことか。全くたかだかバレンタインデーにおける噂話くらいで自分や他人を傷付けて、この日くらい刃を向ける対象をチョコレートに絞――
「受け取ってください」
……そしてこいつはどうして頬を赤らめながら小包を差し出すのだ。
「あのな」
小さく溜め息を吐いて、
「俺に同じ手は通用しねえ。そいつの中身だって知れて」
「お願いします!」
遮られて、目を丸くする。
これまでは笑顔の裏や分かりやすく表情に、早く食べて自分に惚れ込んではくれないものかといった期待の眼差しばかり向けられていた。が、こいつは違う。
「今年も一生懸命作ったんです!」
濁りのない誠意。他の連中とは明らかに異なった姿勢だった。
「……そう」
こいつにだけはどうしても弱い。
受け取ったからには捨てるわけにもいかないだろうが。短く返してスピカは小包を受け取ると、リボンを解いて包装紙を広げ、小箱の蓋をその場で開いた。