黒染めシークレット



――で、あいつは何処に居るんだよ。

スピカは廊下を歩いていた。慌てているような様子はなく。かといって怖々と、何処から来るかもしれない影を警戒しながらというわけでもなく、普通に。誰とすれ違うこともなく、一人で。

――見てないねぇ。多分ここにいるだぁれも見てないと思うよ……?

まさか不用意に表世界に飛び出して蒸発しちまったんじゃねえだろうな。と、こんな具合に軽く考えてしまうが本当なら大事だ。あっては困るので要らぬ妄想はさっさと振り払う。はあ、さて。そもそもの話、部屋にいれば戻って――


次の瞬間ぞくっとした。殺気とは異なるがそれに似た、おどろおどろしい空気。


「あたっ」

それを振り向き様に弾くと声が聞こえた。

「……リーダー?」
「ウルフ?」

思いがけず、ばったりと。物欲センサーと似たようなものだろうか。

「お前、何処に行ってたんだよ」

はっとして何かを後ろへ。ダークウルフはにこりと笑った。

「リーダーを探してたんです。あちらの屋敷にも伺ったのですが、入れ違ってしまったみたいで……あの、何か不都合でも」

……やっぱりな。

「不都合があったのはお前の方じゃないのか?」
 
 
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