子供じゃないもん!



一方でピチカは鏡台を前にぽかんとしていた。

少女を映した鏡にその指先でそっと触れては手のひらを乗せて、それから次第に、その瞳がきらきらと輝きを増してくればぱっとカービィを振り返って、

「カービィってば凄いっ!」 

素直な、率直な感想だった。

「というか天才かも。本当に僕じゃないみたい……」
「あーそりゃまあどうも」

ピチカは既に鏡に向き直っているが、カービィは照れ臭そうに目を逸らして。

「……今の僕って、大人に見えるかな」

ぽつりと呟く。

見た目はそうかもしれない。でもそれは人と接しなければの話。一人称は昔からの癖で変えようにも違和感が残るし、喋り方だって舌足らず。

子供が無理して背伸びしていることは明白だ。

「……わっ」
「気になるなら外にでも出てみれば?」

カービィがそう言って差し出したのはブランド物のバッグだった。

「え、これ……盗んだの?」
「んなわけないでしょ。諸々の事情で回ってきたの」

というのは以前、カービィが勝負に負けたロイに罰ゲームとして女装をさせた際、ロイが見知らぬ男に連れ回された挙げ句買い与えられた物を質屋に放り込むからと取り上げたというものだった。……実際、その気はなかったのだろう。

ほんの少し気に障ったというだけで。

「今の御時世、子供相手に下手に声をかければ警察沙汰だからね。大人だって認識されれば食事くらいは誘われたり誘われなかったり……」

ピチカは鏡をじっと見つめて。

「だからってほいほいついていくのだけはやめなよ。近頃はファッションモデルになりませんかー、なんて声をかけてひと気のない場所に連れ込む悪質な――」

ぱたんと扉の閉まる音にカービィは振り返る。

「……まだ話してたんだけど」
 
 
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