子供じゃないもん!
「……にぃに」
ピチカが青年を呼んだのは初めのカメラマンの男が倒れて間もなくのことだった。
「ひいいっ!」
スピカは返事こそしてやらなかったが、男の脇腹にトドメとばかりに蹴りを入れるとようやく振り返った。それからゆっくりと歩を進めて接近していくと、それまでピチカを後ろから捕らえていた男もまるで化け物を目にしたかのような声を上げて解放、足をもつれながら逃げ出して。
「ありが、」
乾いた音が響いて頬に鋭い痛みが走った。
「……え」
「じゃないだろ」
兄のスピカは冷たく見据えている。
「こっちがどれだけ心配したと思ってる」
ピチカはほんのりと赤みを帯びた頬に手のひらを添えた。
「ただのお出掛けのつもりだった?」
言い当てられて口を閉じる。
「知らない男に声をかけられて、少しも疑う素振りも見せずついていって」
スピカはくっと眉間に皺を寄せた。
「挙げ句、あんな状況で。俺が来なかったらどうなってたか、分かってるのかよ」
珍しい光景だった。
スピカはピチカを甘やかすことがあっても、決して叱ることはなかったのだ。例えピチカの側に罪があったとしても庇うのが主流で、類を見ない溺愛っぷりだった。
「っ……ふえ」
だからこそ、刺さるのだろう。
「ごめんなさいっ……ごめんなさい……怖かったよぉ……!」