子供じゃないもん!
「にぃにのばか!」
屋敷全体が揺れる勢いで叫び、食堂から飛び出したのはピチカだった。
今しがた食堂を訪れたルーティは間一髪、躱して衝突を免れる。一体何の騒ぎだと食堂に顔を覗かせれば唖然として立ち尽くすスピカの姿が。
「り、リーダー……」
ダークウルフは心配そうな顔と声音でスピカの肩へ遠慮がちに指先を触れる。
「どうかしたの?」
皿やカップを片付けていたリンクがちょうど通りかかったので、本人が答えられる状況でないと見たルーティは接近しつつ声をかけた。リンクは振り返る。
「ああ、あれは……その、何というか」
「いいのよ、気にしなくて」
答えたのはリムである。
「単に子供扱いが気に障っちゃったってだけ」
「スピカはピチカのこととことん甘やかすからね……」
ルーティは苦笑い。
「それで、なんて言ってたの?」
「変に付きまとう怪しい男はいないか、とか体調管理は出来ているか、とか」
リンクが幾つか例をあげたがそれだけじゃないのだろう。
いつ見てもお前は可愛いなー、といったお決まりのシスコン発言に始まり、戦場で分からないことがあったら兄ちゃんに聞くんだぞ、といったお節介まで。
……自分に兄か姉がいたとしてあのくらいの年頃なら鬱陶しいかもしれないな。
「良くも悪くも一時的なものですから」
「放っておけばころっと忘れて甘えてくるわよ」
「……そう、かな」
ルーティはぽつりと言った。
「きっかけが無きゃ変わらないものだってあると思うよ――」
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