はじめまして、自覚症状



分かっていたけど。目を背けていた。

少しでも良いイメージを保ちたくてイメチェンをお願いしたり部屋を整理したり。礼儀云々じゃなくて嫌われたくない気持ちが先行して。どうせ成り行きで付き合っただけだしなんて心の中で繰り返しながらもしっかり意識していた。


成り行きをきっかけに。

無意識的に目で追っていたことも。


「へ……変で御座るか」

同じ質問を投げかけたようで意味合いは先程と大きく異なる。いつまでも顔を上げられないでいる彼を無理矢理どうにかするでもなくジョーカーは小さく笑って抱き締めながら。

「全然」

愛おしそうに紡ぐ。

「……可愛い」


自覚したなら次こそは。


「……ミカゲ」

呼べばそろそろと顔を上げた──が、刹那。

「何奴ッ」

瞬時に双眸のハイライトを失せて振り向きざまその手に水手裏剣を形成させて扉の隙間に的確に投げ付ける。ひぎっ、とくぐもった声が聞こえて。

「……パックマン?」

一センチにも満たない少しの隙間から覗いただけだというのに即座に気付いてこの仕打ち。

「あ、あ、危ないだろ!」
「いや何をして」
「心配だから見に来てやったんだろーが!」
「そ、それはどうもご丁寧に」
「恩を仇で返しやがって!」

ひえええっと情けない声を上げるミカゲの目にはもう既にハイライトは戻っている。

「気にかけてくれたところ申し訳ないが」

ジョーカーはミカゲを改めて抱き寄せながら。

「邪魔をしないでほしい」


これだからイケメンは!


「全然邪魔じゃないで御座るから帰らないでえええっ!」


恋愛不慣れの彼が素直に好意を伝えるには。

まだまだ時間がかかる模様。



end.
 
 
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