はじめまして、自覚症状



その瞬間。ミカゲの目がギラリと光った。

「好きな系統は」
「バトル物がいいな」
「であれば今話題沸騰中でアニメ化も発表されている『ソウルザブラッドレッド』をお勧めするで御座る! この漫画は主人公が幼い頃両親に森に捨てられたところを闇の世界の住人が──」

水を得た魚とはこの事。即座に立ち上がって掛けておいた布を勢いよく捲り上げて棚から漫画本を一冊取り出せばジョーカーの隣に滑り込むようにして座り、長々と。べらべらと。見た目こそイメチェンのお陰で改善はされているもののそれすらも霞むオフモード全開で生き生きと語るミカゲの横顔をジョーカーはじいっと見つめて。

「……は」

視線に気付いたミカゲは途端に我に返って適切な距離というものを取りながら座り直して漫画本を床に置いて土下座。差し出す。粗品か。

「ど、どうぞ。ご堪能あれ」
「……ありがとう」

死にたい。

理解があるとは本人も話していたけど! だからといってデートだというのにお言葉に甘えて語り散らかすやつがあるか!

「そういえば」

ミカゲは疑問符を浮かべて顔を上げる。

「この後は何処かに出掛けるのか?」
「……いえ……全然……」
「珍しい格好をしているから」

そんなに?

「へ……変で御座るか?」

言った後でそんなはずはないであろうことに気付く。彼が話しているのは違和感についてであってコーディネートは問題ではないのだ。自分がプライベートだと碌に髪も整えず毎度似たような服を着回しているからそう思ったんだろうな。

そう考えていたら悲しくなってきた。同い年であるマークやシュルクでさえ今の流行を取り入れたファッションを着こなしているというのに。

「いや」

ジョーカーはそう言った後で。

「良かった」
「……え」
「とても似合っているから」

柔らかく。笑いかける。

「独り占め出来るのは嬉しいよ」
 
 
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