はじめまして、自覚症状



付き合うようになったきっかけは成り行きで。

そうした方が都合が良さそうだったから。


実際付き合いたてのカップルみたいに暇があればくっ付いているとか離れていても通知がうるさいくらいメッセージのやり取りをしているとかそういうのは全くない。かといって不服か不満かと言われればそんなはずもなく。そんなもんだよなと腹を括って過ごしてきた矢先に。


部屋に行きたい。なんて。


「つつ……」

脳天制裁チョップを頂いてからの退室。ああだこうだと文句を言っておきながらせっかく部屋に遊びに来てもらえるんだからと包装された焼き菓子まで二つ渡された。何これ。女子?

自室に戻ってきたミカゲは改めて自分の部屋を見回した。見られて困るものはきちんと箪笥に仕舞ってアニメキャラのタペストリーも抱き枕カバーも片付けたしオフモードでは絶対に外せない瓶底眼鏡も今日は棚の中でお留守番。

それでも要所要所に"味"を隠しきれていないがそこまで言ったらシュルクやマークに部屋を借りることになる。流石に無理。

「……よし」

消臭スプレーをカーテンやベッドに振り掛けて一人頷いて──自分も何を念入りにここまで頑張っているのか。どうせただの成り行きで付き合うことになっただけの仲なら明日別れるかも分からないのだしあれこれ気を遣う必要もないだろうに。いやいや常識的に。人と接する上での礼儀というもので御座るよ読者諸君。

「ほぎゃ」

変な声が出た。ノックの音。……遂に来たか。

わたわたと消臭スプレーをベッドの下に滑り込ませて卓上ミラーで髪を軽く整えて。待って待ってと心の中で唱えながら扉に飛び付いたが深呼吸をしてからゆっくり、ゆっくりと開きながら。

「、はい……」
 
 
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