春先の温もりは
なるべく、誰にも悟られないように。
自室で食べるだけですが何か? といった具合に堂々と、水を汲んだコップ、林檎、果物ナイフを手に部屋へ向かう。
「ぁ、ウルフ……」
部屋に入ると、気付いたルーティはのっそりと体を起こして。無理をするな、と言ってやりたいが生憎そんな柄じゃない。
「ほらよ」
とりあえず、コップを手渡してからベッドの縁に腰掛ける。受け取って彼が水を口にしている隙に、果物ナイフで林檎の皮を剥いていく。くるくる、くるくる、と。
「わあ、上手だね」
嬉しそうに微笑を浮かべる彼に、自然と表情が和らいだ。林檎の皮が剥き終わったところで食べやすいサイズに手のひらの上で切り分け、その内の一つを摘まむ。
「口、開けろ」
こくりと頷いて、差し出された林檎を口にする。冷たくて美味しい、と肩を竦めた。
――昼になったら粥でも作ってやるか。