言葉がなくても



いやでも口を利こうとしない彼には、確かに何度も疑問を感じた。それでも時間が経ってしまえば、気にならないことなのだ。

例え言葉が無くたって、伝えようとする想いが。応えようとする想いがあれば。

「旨いか」

ぽつり、訊ねてみる。その時は砂場や滑り台、ブランコ等で遊んでいる子供達を眺めていたので、彼を見ていなかったが。

恐らく、頷いたことだろう。

とはいえ、何となくだが意地悪をしてやりたくなる。買った文房具を傍らに置いてから、頷けないようゲムヲの頬を両手で包み込み、ぐいと此方を向けさせて。

「それ、旨いか?」

ゲムヲは驚く様子もなく。バニラをスプーンで掬い、アイクに差し出しながら。


「食べてみる?」


――それでも、たまには声に出してみなくちゃね。にこりと笑ってみせるゲムヲに釣られて、アイクは口元に笑みを浮かべた。



end.
 
 
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