言葉がなくても
エックス邸、中庭。
「何、描いてるの?」
今日も元気に外で遊んでいた子供組の内の一人、リュカは木陰に腰を下ろしてスケッチブックを手に、絵を描いているゲムヲを見つけて駆け寄り、声をかけた。
ゲムヲはふと、ペンを止めてリュカを見上げてから、視線を落とし、絵を見つめて。
「……エックス邸、描いてたんだ」
リュカはスケッチブックを覗き込むと、微笑した。ゲムヲも釣られて口元に笑みを浮かべ、スケッチブックのページを捲る。
「ぁ」
思わず、リュカは小さく声を洩らした。
スケッチブックが今のでちょうど、切れてしまったのである。いつも、スケッチブックを使って会話を試みていた無口な彼にとって、これはある種の大事件なのだ。
「だ、大丈夫……?」
当然、ゲムヲもこの顔である。
スケッチブックのストックも無いのか青ざめていて、言葉を失っていた。といっても、彼は普段から喋らないのだけれど。
1/7ページ