狼の休日
思っていたよりも冷静な自分がいる。
グレーの体はふさふさとしていて、特徴的な大きな耳や鋭い牙なんかは、赤い頭巾を被った女の子にでも声をかけられそうだ。
なんて遠回しな説明をしてみたが、この姿は紛れもなく“狼”である。そして、説明をしている自分こそ、かの勇者。
緑の衣を纏った男、リンクだったのだ。
はてさて、これはどうしたものか。
目が覚めたら狼の姿になっていたのだから不思議だ。かつて、共にハイラルの地を巡ったミドナのことを思い出す。
……じゃなくて。大きな騒ぎを起こさない内に、この部屋から退散しなくては。
ここにはトゥーンも――
「……い、ぬ」
残念、一足遅かった。
「犬ぅぅ!?」
――こうして、訳も分からないまま狼の姿となったリンクの、長い一日が始まった。
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