ブラックチョコレート



「分かりませんねぇ」
「それで結構」

クレイジーは相変わらずつんとした態度で鍋を洗い終えると、水を入れてからガス焜炉の上に乗せて火を点ける。

「そうではなく」

クレイジーがチョコレートを刻む作業に取りかかろうとしたその時。ダークファルコの視線の先が己ではないことに気付いて。

「……兄さん」

振り向けば、そこにマスターはいた。

いつから居たのかは知らないが、これに関しては誰かに此処に入れるなと言っておかなかった、自分にも責任がある。

「何処にもいないから捜したんだぞ」

マスターはそれほど怒ってはいないようだったが、短く息を吐き出して。

「それと。……これ」

クレイジーは目を開いた。

なんとマスターが手に持っていたのは、固まるかもと期待してハートの形をした型に流し込んだ、チョコレートだったのだ。
 
 
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