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第二話

目を覚ますと、坊主が覗き込んでいた

ぼうっとする意識の中で、坊主がにこりと笑っているのを見て、自分は死んだのだなと思った

「よかった。意識が戻ったんですね」

修行僧の坊主は安堵の表情を浮かべて、どこかへ行ってしまう

体を動かそうとするも、腹部に強烈な痛みが走って思わず顔が歪む

腕には何やら点滴がされているらしく、無理に動かすのは止めて、大人しく天井を見上げた

ー助かったのか……

いくつかの管に繋がれた体は、激痛で思うように動かない

傷の具合から見て、しばらくは治療に専念しないといけないようだ

ため息を吐いていると、修行僧と一緒に住職が入って来るのが見えた

「意識はあるようね」

女口調の住職がにこりと笑って、点滴の速度を少し緩める

寺に勤める住職をしている傍ら、医者をやっていると噂では聞いたが、本当に居たとは思わなかった

「傷は思ったより深くなかったから、早く治りそうよ」

「そうか……」

「うまく急所を外したようだけど、刺され慣れてるのかしら。他にも体に古い傷があるけど」

「まぁ、な。よく喧嘩するんだ」

「詳しい事は聞かないわ。ここじゃ珍しくないものね」

住職は善三と名乗った

修行僧に点滴を任せて、善三は部屋を出て行く

替えの点滴を持って来た修行僧も、あまり話す事なく部屋を離れて行く

「あの、住職…」

少し離れた所で修行僧が不安げに善三に近寄る

「なぁに?」

「大丈夫でしょうか…その、寺を壊されるようであれば、対処しなければ…」

しどろもどろになりながら、修行僧はチラリと男が居る部屋の方を見る

心配性なのは、修行僧なりの優しさだった

「大丈夫よ。今回は便利屋さんに見張りをお願いしたから」

「えっ…あのお二人にですか…」

ますます不安な表情が滲み出ている修行僧に、善三は片目を閉じて歩き出す

傷は上手く急所を外れていた

刺される前に体を捻って、衝撃を抑えたのだろう

手足のかすり傷も、致命傷にならない為、最低限に傷ついたもの

何より、鍛え上げられた体が、只者ではない事を示していた

「あの子達に任せて、寺が壊れるようなら…相応のお金は請求させてもらうから」

横目で見る先には、便利屋の二人がげっそりとした表情で部屋の前に居た

「カマ三の請求の仕方はえげつねぇからな」

「そうなんだ」

乗り気にはなれないものの、頼まれたら断る訳にはいかない

二人は目を合わせて、男が居る部屋に入る

男が二人を見た途端、鋭い目付きでこちらを睨む

明らかに警戒されている様子に、二人は愛想のいい笑みを浮かべて近づく

「そう険しくなるなよ。俺らはただ、容態の悪化をしないように見ててくれって頼まれただけだ」

「そうそう。何もしないから安心してよ」

しばらく睨んでいた男だったが、両手を上げ敵意がない事を見せると、睨む事を止めた

体を動かすと痛みが走るらしく、起きようとした男は顔を歪めて、ベッドに沈む

「何日で治る」

「あ?」

「何日で治ると聞いてる」

「知らねぇよ。オカマ野郎に聞け」

男は舌打ちをして、天井を睨みつける

何か訳ありの様子なようで、表情には明らかな焦りの色が見えていた

長いこと裏東京に住んでいる蓮は、ベッドに居る男には見覚えがなく、外から来たのだと推測できた

「俺たちは便利屋。こっちはシンで、俺は蓮」

ぶっきらぼうに挨拶をするが、男は興味ないという態度を取られ、蓮は小さな血管が切れそうになる

「間宮 廉司。外から来た」

「何しに裏まで来たんだ」

「お前らに教える義理はない」

警戒している間宮に最もな事を言われ、蓮はキレそうになりながらもぐっと堪える

ため息をして、部屋から出ようと間宮に背を向けると、善三が入って来た

「しばらくは安静にしておいた方がいいわ。ここは安全だし、誰も来ないからしっかり治して行きなさい」

「仕事がある。長居は出来ない」

「仕事が残ってても、無理しちゃ傷口が開くわよ」

「知った事か。仕事は遅れちゃいけねえんだ」

余程大切な仕事なのか、善三の言葉に間宮が覆いかぶさる

諭す善三だが、上着を着て身支度をする間宮を止める様子はない

便利屋も厄介な男だと、特に引き止めはしなかった

よろけながらも間宮は立ち上がり、善三を睨み付ける

「邪魔したな」

傷口を押さえながら、間宮はふらふらと出て行った

「止めなくて良かったのか?」

「だって仕事に行かなきゃって言ってたから、止めはしないわよ。応急処置はしたけど、あんなに言うなら、後は自己管理しかないわね」

帰すには惜しかった、と善三はため息をつく

見張る必要の無くなった便利屋も、善三に別れを告げて寺を後にした

「あの人、大丈夫かな」

帰り道でシンがぽそりと呟く

ぶっきらぼうな間宮を心配する程、シンはお人好しでどこか犬のような性格をしている

そのせいかシンは度々、仕事でも深入りする事が多い

受け流して仕事のみを完璧にこなす蓮とは違い、情に流されやすいタイプでもある

「ほっとけ。どうせ過激派の仕事だろ。じゃなきゃこんな所まで仕事に来るかよ」

「そうだけど……」

「便利屋の仕事はな、後腐れなくやるもんだ。いちいち情に熱いと、身が持たねぇぞ」




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