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第二話

灼熱の夏も終わり、肌寒い秋が裏東京にもやって来た

木の葉は枯れて地面に落ち、冬の訪れを告げている

そんな木の下で便利屋の二人は、枯葉を箒で掃いて集めていた

古びた寺にそびえ立つ、一本の銀杏の木

黄色、橙、様々な色の銀杏の葉が舞い落ちていく

掃いても掃いても舞い落ちる木の葉に、蓮の苛立ちはピークに達していた

「ったく、どんだけ落ちんだよお前ら。日が暮れちまう」

「これ集めたら、焼き芋するんだって。風流だよね」

呑気に枯葉を集めながら、シンが笑う

犬の世話、ゴミ出し、寺の木の葉集め、チラシ配りに缶つぶし

便利屋の名に相応しい仕事ばかり舞い込み、報酬は食べ物と煙草が最近の定番

「早く集めないと、ホントに日が暮れるわよ」

作務衣姿の坊主が縁側に座り、さつま芋を銀紙に包んでいる

その坊主の隣には、猫が一匹退屈そうにあくびをひとつ

「もう少しで全部だよ、善三のお姉さん」

「カマ三の間違いだろ」

すかさず、蓮の後頭部に硬い芋が突き刺さる

柔らかな表情を崩さず、善三はにこりと笑い、蓮を見据えた

「誰が、カマ三だって?」

「その猫が言ってた」

「タマちゃんが人間の言葉を話す訳がないでしょ」

後頭部に突き刺さった芋を抜いて、善三に投げて返す

山のように詰んだ枯葉に善三が火を点ける

銀紙に包んださつま芋を枯葉の中へ入れていく

箒を縁側に立て掛けて、便利屋の二人も縁側に座る

「お疲れ様です」

修行僧の一人がお茶を運んできた

動いた後に飲む温かい緑茶が、体に染み渡る

「のどかだねぇ」

お茶を啜りながら、シンが縁側から空を見上げて、目を細めた

最近は、あまり大掛かりな依頼も舞い込んでおらず、呑気な生活を送っている

金以外の報酬も貰っており、以前のように金にも食べる物にも困っていない

「最近はどいつもこいつも大人しいからな」

何の刺激もない生活に、蓮も自分の体が鈍っているのを感じていた

枯葉が乾いた音を立てて煙を上げ、焼き芋が出来るまでの間、善三も縁側で猫を膝の上で撫でている

「昔はあんた達も、この辺りじゃ名の知れた暴れん坊だったものね。歳を取ると大人しくなるのかしら」

「てめぇは相変わらず、歳を取らねぇな」

「あら、まだまだ現役なのよ」

つるりと剃り上げた頭をひと撫でしながら、善三はにこりと笑う

ここは、裏東京に唯一存在する寺

何の変哲もない寺だが、ホームレスの孤独死や身寄りの居ない者たちを、無縁仏として引き取っている

住職である善三と修行僧が一人居る、小さな寺には、まだ10代の頃に出入りした事があり

二人にとっては馴染み深い場所でもあった

「能力者同士の争いもあまり聞かないから、説教しなくて丁度いいわ」

枯葉の中にある芋を枝でつつき、頃合いの物を取り出す

軍手を嵌めた修行僧が、焼き芋を手の中で転がしながら、縁側に置く

「知り合いの農家から貰ったさつま芋よ。きっと甘くて美味しいわ」

「ありがとう〜善三姉さん」

子供のように笑い、シンは上がったばかりの焼き芋を半分に割り、湯気が立つのを見て息吹き掛ける

一口頬張って、至福の表情を浮かべた

「はい、半分」

シンが割った片方を蓮に差し出す

皮を剥いて、蓮も一口頬張る

熱の収まった焼き芋を紙袋に二つ入れ、善三はカフェのマスターにと、蓮に手渡す

「マスターによろしく言ってちょうだい」

「あぁ」

傍らに紙袋を置いて、焼き芋を半分食べ終え、煙草に火を点ける

「なんか、仕事はねぇのか?」

枯葉の火を消している修行僧の手が、止まる

無口な修行僧は、善三を見上げながら首を横に振った

「めぼしい仕事はないわ。便利屋さんも、私も」

「使えねぇ…」

小さく呟いたつもりが、善三にはしっかりと聞こえていたらしく、持っていた枝が蓮の額に刺さる

「仏みてぇな顔して、やる事はえげつねぇな」

「自分の身は、自分で守らないとね。ここは特に」

「あんたには必要ねぇだろ」

「そんな事言って、怪我しても知らないわよ」

善三の声を聞きながら、便利屋の二人は寺を後にする

温かい焼き芋を抱え嬉しそうなシンの隣で、蓮はため息をつく

寺からカフェまでは歩いて数十分ほど

近道を抜けて、大通りへ出るとすぐにカフェの看板が見えてくる、何時もの帰り道のはずだったが

「……」

「…なにあれ」

カフェの前で座り込んでいる人影が一つ

駆け足で近付いて行くと、座り込んでいるのは一人の男

腹には、ナイフが刺さったまま

歩道は血で染まっていた

「穏やかじゃねぇな…」

煙草を捨てながら、蓮は密かに笑みを浮かべていた




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