第一話
動き出した世界で会長は、状況を理解出来ずにいるらしい
銃を二人に向けて撃ったが、次の瞬間には両手両足を縛られ、椅子から動けないでいる
「茨木、何をしているっさっさと動きを封じろ」
声を荒らげても、茨木は動かない
銃は蓮が持っている
その銃口は会長に向けられ、シンの左目は赤く染まったまま
ーこいつの能力はなんだ…
じっと会長を見つめるシンには、笑顔はない
「混乱してるね」
シンの一言に会長の動きがピタリと止まる
表情は焦り、汗がこめかみから流れ落ち、能力者を前に息が荒い
「大丈夫だよ、ちゃんと教えてくれれば…痛いことしないから」
「気を付けろよ。こいつ、こんな顔してえげつない事するからな」
妖しく笑いながら、蓮は会長の後ろに回り込み、眉間に銃口を突き付ける
だが、組織の頂点に立っている人間は、そう簡単に屈しない様だ
死ぬ覚悟でもあるかのように、椅子に縛り付けられたまま、シンを睨む
「茨木 迅の家族を、どこに隠したの?」
「ふん……知ってて教える訳がないだろう」
足掻くように、会長は口角を上げる
同時にシンも、左目を閉じてにこりと笑った
シンの左目に映るのは、会長の頭上に現れた文字
断片的だが、会話の内容がはっきりと映し出される
「ありがとう。地下の格納庫に居るんだね」
会長の表情が徐々に崩れていく
どのような能力か、理解したのだろう
怒りに震え、歯軋りが聞こえる
「だってよ。格納庫くらい、場所知ってんだろ」
「もちろんだ」
「じゃ、早く行ってあげないとね。見張りが何人か居るみたいだけど、あんたの腕なら大丈夫でしょ」
茨木は静かに頷く
サトリ(覚)
人の心を読み当てる能力だと、茨木は確信する
「……」
若い頃に拾われ、会長のお膝元として、時には汚れ仕事もしてきた
組織内の抗争の時も、会長に代わって指揮を執り、警察が動く手前で抗争を終わらせた
愛する妻と出会い、子供も産まれ、守るべき存在が増えた事が嬉しかった
だが、自分も結局は組織の為に動く駒でしかなかった
偽物の絆を思い知り、親として慕っていた思いも、もはや無い
愛する妻と子供と引き換えに、任務を遂行する事など、考えられない
「感謝する」
会長を残し、怪しまれないように部屋を出る
大声を出して助けを呼べないよう、蓮は会長に猿轡をした
銃口は会長に向けたまま、左目を閉じる
金色に変わる瞳の色に、会長が目を見開く
「俺の能力が一つだって、誰が決めたよ」
金色の瞳に映るのは、茨木が地下の格納庫へ辿り着き、見張りと話している光景
「俺は一つしか使えないよ?」
「シンは千里眼しか持ってねぇからな」
「蓮だけ二つ持ってるから羨ましい」
「ふん…」
心を読まれた会長は、焦りのあまり脂汗が頬を伝う
脱出の術を考えたとしても、サトリで心を読まれてしまい、全て筒抜けになる
「お、二人に会えたみてぇだな」
蓮は左目を閉じて、銃を会長から離す
後ろに置かれている金庫から、札束を二つ取り出してポケットに詰め込む
シンにも札束を二つ渡し、同じようにポケットに詰めた
「さて、会長さんよ」
金庫を閉じて、銃を持ったまま会長の目の前に立つ
念の為、シンはまだサトリの能力を発動させたまま
「誰の差し金かは聞かねえ事にしてやるよ。その代わり…俺たちを手駒にしようとしてくれたオトシマエは、付けてくれるな?」
何も反論せず、猿轡をされている会長は、静かに頷く
能力者を手の内に引き込もうとした計画は、もう機能していない
「計画は破棄しろ。そんで、あのおっさんの家族には今後一切、手を出すな。もし妙な真似をするようなら…今度は組織ごと殺す」
部屋に漂う異様な空気に蓮の低い声が響く
時を止める能力を持つ蓮なら、一瞬で組織ごと壊滅させることも出来る
能力を目の当たりにした以上、無理な抵抗は危険だった
猿轡を外され、少し噎せる
「じゃ、まいどありー」
手をひらひらと振りながら二人が扉を開ける
外に居た見張りに見送るよう伝え、二つの背中を睨む
「お前達は必要な人材だ。希少な資源として、国ぐるみで争いが起きる」
部屋を出た蓮が足を止める
振り返った眼差しは、冷酷そのもの
背筋に寒気が走った
「いずれ、お前達を奪い合う戦争が秘密裏に始まる。テンペストは近付いている」
「テンペスト?なにそれ」
「ふんっ今は知らずとも、いずれ知ることになるだろう」
正気ではない高笑いが部屋中に響き渡った
外に居た見張りも、会長の変わり様に言葉を失い、呆然と立っている
「くだらねぇ」
スタスタと異様な空気の中、蓮は部屋を立ち去る
正面の門に行くと、子供を抱いた茨木が立っていた
隣には小柄な妻が寄り添っている
「あんたの方がよっぽど会長が似合ってるな」
そう言って、ポケットからボイスレコーダーを取り出して茨木に渡す
「これで、しばらく会長さんはいい顔できねぇな」
「蓮、報酬も貰ったし帰ろうよ」
「ガキみてぇな事言うな。さっさと帰るに決まってんだろ」
門を出る前に振り返り、茨木に手をひらひらと振る
右目を2回瞬きして世界を止めて、二人は帰路に着く
カフェの前で、2回瞬きをすると世界が動き出した
「早かったな」
カウンターには、リンがコーヒーを飲んでいる所だった
ポケットが膨らんでいるのを見ると、リンはにこりと笑い、片目を閉じる
「さすがね。便利屋さん」
「お前の仕事は割に合わねぇな」
「あら、そんなだから鞄忘れて報酬もろくに貰えないのよ」
「こんのデカちち……」
「まぁまぁ」
リンにズバリ言い当てられ、怒りで震える蓮の肩に手を置いて場を収める
相変わらずキレやすい蓮に、マスターもため息をつく
「その様子じゃ、最後まで手引きしなかったのね」
「まぁな。後は優秀な部下が何とかするだろ」
カウンターに座ると、マスターが蓮の前に灰皿を置く
煙草に火を点けて、ポケットから札束を取り出す
久しぶりの大金に、思わず笑みが溢れる
「これで、しばらくは金に困らねぇな」
「だねえ」
「じゃ、その報酬から払ってもらおうか」
マスターの目が光り、棚から何やら手帳を取り出す
手帳の表には、ツケ代と書かれていた
「うちのツケ、大金貰ったんなら払えるよな?」
威圧的な声に、二人はごくりと固唾を飲む
ここでいつ、金を払っていたか、まるで覚えていない
「合法なやり方で、きっちりオトシマエしてもらうぜ?」
「はい……」
❀✿❀✿
銃を二人に向けて撃ったが、次の瞬間には両手両足を縛られ、椅子から動けないでいる
「茨木、何をしているっさっさと動きを封じろ」
声を荒らげても、茨木は動かない
銃は蓮が持っている
その銃口は会長に向けられ、シンの左目は赤く染まったまま
ーこいつの能力はなんだ…
じっと会長を見つめるシンには、笑顔はない
「混乱してるね」
シンの一言に会長の動きがピタリと止まる
表情は焦り、汗がこめかみから流れ落ち、能力者を前に息が荒い
「大丈夫だよ、ちゃんと教えてくれれば…痛いことしないから」
「気を付けろよ。こいつ、こんな顔してえげつない事するからな」
妖しく笑いながら、蓮は会長の後ろに回り込み、眉間に銃口を突き付ける
だが、組織の頂点に立っている人間は、そう簡単に屈しない様だ
死ぬ覚悟でもあるかのように、椅子に縛り付けられたまま、シンを睨む
「茨木 迅の家族を、どこに隠したの?」
「ふん……知ってて教える訳がないだろう」
足掻くように、会長は口角を上げる
同時にシンも、左目を閉じてにこりと笑った
シンの左目に映るのは、会長の頭上に現れた文字
断片的だが、会話の内容がはっきりと映し出される
「ありがとう。地下の格納庫に居るんだね」
会長の表情が徐々に崩れていく
どのような能力か、理解したのだろう
怒りに震え、歯軋りが聞こえる
「だってよ。格納庫くらい、場所知ってんだろ」
「もちろんだ」
「じゃ、早く行ってあげないとね。見張りが何人か居るみたいだけど、あんたの腕なら大丈夫でしょ」
茨木は静かに頷く
サトリ(覚)
人の心を読み当てる能力だと、茨木は確信する
「……」
若い頃に拾われ、会長のお膝元として、時には汚れ仕事もしてきた
組織内の抗争の時も、会長に代わって指揮を執り、警察が動く手前で抗争を終わらせた
愛する妻と出会い、子供も産まれ、守るべき存在が増えた事が嬉しかった
だが、自分も結局は組織の為に動く駒でしかなかった
偽物の絆を思い知り、親として慕っていた思いも、もはや無い
愛する妻と子供と引き換えに、任務を遂行する事など、考えられない
「感謝する」
会長を残し、怪しまれないように部屋を出る
大声を出して助けを呼べないよう、蓮は会長に猿轡をした
銃口は会長に向けたまま、左目を閉じる
金色に変わる瞳の色に、会長が目を見開く
「俺の能力が一つだって、誰が決めたよ」
金色の瞳に映るのは、茨木が地下の格納庫へ辿り着き、見張りと話している光景
「俺は一つしか使えないよ?」
「シンは千里眼しか持ってねぇからな」
「蓮だけ二つ持ってるから羨ましい」
「ふん…」
心を読まれた会長は、焦りのあまり脂汗が頬を伝う
脱出の術を考えたとしても、サトリで心を読まれてしまい、全て筒抜けになる
「お、二人に会えたみてぇだな」
蓮は左目を閉じて、銃を会長から離す
後ろに置かれている金庫から、札束を二つ取り出してポケットに詰め込む
シンにも札束を二つ渡し、同じようにポケットに詰めた
「さて、会長さんよ」
金庫を閉じて、銃を持ったまま会長の目の前に立つ
念の為、シンはまだサトリの能力を発動させたまま
「誰の差し金かは聞かねえ事にしてやるよ。その代わり…俺たちを手駒にしようとしてくれたオトシマエは、付けてくれるな?」
何も反論せず、猿轡をされている会長は、静かに頷く
能力者を手の内に引き込もうとした計画は、もう機能していない
「計画は破棄しろ。そんで、あのおっさんの家族には今後一切、手を出すな。もし妙な真似をするようなら…今度は組織ごと殺す」
部屋に漂う異様な空気に蓮の低い声が響く
時を止める能力を持つ蓮なら、一瞬で組織ごと壊滅させることも出来る
能力を目の当たりにした以上、無理な抵抗は危険だった
猿轡を外され、少し噎せる
「じゃ、まいどありー」
手をひらひらと振りながら二人が扉を開ける
外に居た見張りに見送るよう伝え、二つの背中を睨む
「お前達は必要な人材だ。希少な資源として、国ぐるみで争いが起きる」
部屋を出た蓮が足を止める
振り返った眼差しは、冷酷そのもの
背筋に寒気が走った
「いずれ、お前達を奪い合う戦争が秘密裏に始まる。テンペストは近付いている」
「テンペスト?なにそれ」
「ふんっ今は知らずとも、いずれ知ることになるだろう」
正気ではない高笑いが部屋中に響き渡った
外に居た見張りも、会長の変わり様に言葉を失い、呆然と立っている
「くだらねぇ」
スタスタと異様な空気の中、蓮は部屋を立ち去る
正面の門に行くと、子供を抱いた茨木が立っていた
隣には小柄な妻が寄り添っている
「あんたの方がよっぽど会長が似合ってるな」
そう言って、ポケットからボイスレコーダーを取り出して茨木に渡す
「これで、しばらく会長さんはいい顔できねぇな」
「蓮、報酬も貰ったし帰ろうよ」
「ガキみてぇな事言うな。さっさと帰るに決まってんだろ」
門を出る前に振り返り、茨木に手をひらひらと振る
右目を2回瞬きして世界を止めて、二人は帰路に着く
カフェの前で、2回瞬きをすると世界が動き出した
「早かったな」
カウンターには、リンがコーヒーを飲んでいる所だった
ポケットが膨らんでいるのを見ると、リンはにこりと笑い、片目を閉じる
「さすがね。便利屋さん」
「お前の仕事は割に合わねぇな」
「あら、そんなだから鞄忘れて報酬もろくに貰えないのよ」
「こんのデカちち……」
「まぁまぁ」
リンにズバリ言い当てられ、怒りで震える蓮の肩に手を置いて場を収める
相変わらずキレやすい蓮に、マスターもため息をつく
「その様子じゃ、最後まで手引きしなかったのね」
「まぁな。後は優秀な部下が何とかするだろ」
カウンターに座ると、マスターが蓮の前に灰皿を置く
煙草に火を点けて、ポケットから札束を取り出す
久しぶりの大金に、思わず笑みが溢れる
「これで、しばらくは金に困らねぇな」
「だねえ」
「じゃ、その報酬から払ってもらおうか」
マスターの目が光り、棚から何やら手帳を取り出す
手帳の表には、ツケ代と書かれていた
「うちのツケ、大金貰ったんなら払えるよな?」
威圧的な声に、二人はごくりと固唾を飲む
ここでいつ、金を払っていたか、まるで覚えていない
「合法なやり方で、きっちりオトシマエしてもらうぜ?」
「はい……」
❀✿❀✿