錆びない青。
ヒロイン名
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「無事、二学期を迎えたわけだけど、本日は二ヶ月後の青錆祭……つまり文化祭に向けての話し合いを行おう。司会はオレで構わないか? 夜陣」
第二音楽室の壇上で、結束が重々しく言った。
「構わない、よろしく頼む」
夜陣が答えた。
龍華がだるそうに言った。
「ハ、話し合いって、DTM部で何かすンのか?」
結束が厳しい顔で答える。
「するに決まってるぜ。
文化部の場合、もし出展しないと次年度の予算が激減する。
うちは今年の4月に夜陣が始めた新設の部活だから少なめとはいえ一応予算が与えられてるが、出ないとそれもなくなっちゃうぜ」
「そうか。だが、全員で出る必要はあるか? やりたいやつだけで出展してもいいんじゃねーか?」
「おい、龍華! お前、何の為に部活やってる! やる気なさ過ぎだろ!」
レーレが怒り出した。
ミオも困ったように意見した。
「龍華くん、やりたいひとだけ……はさすがに私もどうかと……」
龍華はにやっと笑った。
「冗談だ。本当にやる気がないやつを炙り出すためのな。オレに賛同するやる気がないやつがいないみたいでよかった。やってやるぜ、全力でな」
「もうー。紛らわしい言動しないでー」
結束がにこにこ言った。
「出展しないと予算激減だから、出展は全文化部するわけだけど、その中で集客数と満足度を競う制度があるぞ。三位までの部活には予算アッププラスアルファで賞金が与えられる」
「賞金?!」
「そう、去年優勝したオーケストラ部は確か三十万もらったはずだ」
「ええー、一年の時はミスコン予選とかで忙しかったし、部活やってなかったから全然知らなかった!」
「オケ部は三十人規模だから一人ひとりに分配したらスズメの涙だっただろうけど、オレらは違う。顧問入れても七人しかいない」
「賞金の一人あたりの取り分が多いってことね。でも逆に人数が少ないんだから、出展内容によっては大幅に他部活より不利になるわ」
「ようやく、話し合いの重要性が分かってきたようだね。じゃあ、七人しかいないことを前提にした上で、何を出展するか決めよう!」
「……DTM部なんだからライブをいつもみたいにするんじゃないの?」
「いつもと同じことをやって人が大量に集まると思うか?」
「いつもと違うこと? っていうと食販とか、喫茶とかをするのか?」
「まだ暑いから冷たいアイスとか売ったら、案外個数はけるかもな」
「いや、音楽は絡めたものでないとだめだろ。誰がやってもいいだろ、ってことになっちまう。もっと音楽性があってメッセージ性やストーリー性もあるような……」
「そんな都合のいい出し物あるか?」
その時ガラッと扉が開いて、ひょっこり顔を覗かせた男がいた。
一斉にそちらを見やる一同。
「樹! いったいどこをほっつき歩いていた! 今日は大事な話し合いだと言っておいただろう!」
「すみませんー、別にオレは決定したことに従うので。でも今なにか困ってませんでした?」
「出し物が決まらないんだ」
夜陣たちから事情を聞いた樹はにこにこ笑って言った。
「劇で良くないですか?」
「音楽性もメッセージ性もストーリー性もある……」
「いいかも……」
樹の鶴の一声で出し物は劇に決まった。
結束が仕切り直す。
「ライブ型の出し物の場合、二日間に渡って行われる文化祭の間に、通算二回まで上演できるらしい。ここは二回とも同じものをやるってことで異論はないと思うけど……」
「いや、一回ずつ違うものをやった方が客の入りはいいはずだ」
「そんな無茶な……」
「結末だけ、少し変えてみるとか?」
「それくらいなら現実的だな」
「二回観た人の満足度も上がるだろうし、いいんじゃねーか」
「でも結末が何パターンも用意されてる台本って、あるのか?」
夜陣はにやにやしながら、ミオとレーレを見た。
「あると思うか? 長文ポエマーと現国才女さま」
ミオとレーレは真っ赤になったが、
「書くわよ! オリジナルの方が絶対面白いしっ!」
「台本は私らにまかせろ」
と元気よく言い切った。
一週間でミオとレーレは共同で二パターンの台本を書き上げた。
タイトルは「碧の森のくびき」と「錆びない剣。」。
「碧の森のくびき」は龍華演じる魔物が勝利し、「錆びない剣。」は夜陣演じる勇者が勝利するという、全く反対のラストが用意されていた。
練習していると、黒川がバーン! と入って来て叫んだ。
「上映会場は広く、唯一クーラーのある講堂に決まったぞ! 第一体育館や第二体育館にならぬよう取り計らってやった。感謝して最高の作品を上演するんだな」
夜陣が機嫌よく礼を言った。
「約束通り取り計らってくれたんですね、ありがとうごさいます」
結束がやんわり言った。
「いや、黒川先生は平等にくじを引いただけだよ。講堂になったのは、運の良さだ。生徒会のオレが不正のないように立ち会ったから、よく分かってる」
黒川はげっそりした。
「結束ァ……余計な水を差さんでいい!」
夜陣の機嫌は良いままだった。
「はは……もし講堂をゲットできなかったらどうするつもりだったのやら」
そしてあっという間に文化祭前日になり、全生徒にパンフレットが配られた。夜陣はすぐにDTM部の出し物の部分を見つけ、叫んだ。
「このパンフに載ってるDTM部の出し物紹介の写真はいわばオレたちの初アー写! もといアーティスト写真!」
レーレが言う。
「アップのミオりんのバックで勇者夜陣と魔物龍華が剣を交える構図か。なかなか興味をそそりそうでいいと思うぜ」
そして、当日本番一回目の上演。タイトルは「碧の森のくびき」。
青錆祭初日の午後三時から、講堂にて行われた。パンフレットの効果か、観客の入りもぎっしりである。
ガシャーン、ガシャーン!
魔物の双剣と勇者の大剣が激しくぶつかり合う殺陣シーンが続く。
物語は進んで行き、観客は舞台に釘付けになった。
魔物役である龍華が、勇者役の夜陣を青く輝く結界に閉じ込めて、動けなくした上で言い放つ。
「オレが貴様を狙った理由? 覚えてないのか……。オレは前世で魔物の身でありながら、それを唯一気にせず優しく接してくれた王女と恋に落ちた。王女といる間だけは、オレは己が汚らわしい魔物であることを忘れることができた。だが、ある日突然現れた貴様が王女を奪っていったんだ! オレたちは幸せだったのに!」
勇者夜陣が大剣を振りかざし、アシンメトリーな髪型を乱しながら叫び返す。
「嘘だ! 王女はお前といることで地獄の苦しみを味わっていたんだぞ! それをオレは救い出した……王女は笑ってオレと結婚してくれた……」
泣きながら叫ぶ王女役であるミオ。
「確かに魔物といることで、私の寿命はどんどん削られていった……。でもそれでよかったのに! 一緒に過ごせるだけ過ごして、魔物の腕の中で死ねたら、私は幸せだった! そのこと、言い出せなくて、本当にごめんなさい……勇者様」
勇者夜陣ははっと傷付いた表情を浮かべたが、次の瞬間にはまたその瞳に確固たる意志を宿していた。
「そうだったのか……。しかしオレはキミの意志より、キミが長く生きられることのほうが大切だ。悪いが、現世でも王女は奪わせてもらうぞ! もう少し……もう少しでこのいまいましい結界も消える……!」
「やめろ! 連れて行くな!」
魔物龍華が切羽詰まったように叫んだ。
そんな魔物龍華に王女ミオも震えながら叫ぶ。
「お願いやめて……」
しかし、勇者夜陣の決意は変わらないことを悟った王女ミオは魔物龍華に囁いた。
「一緒にいれば、一緒に居さえできれば、例えその時間は短くても、たくさん、楽しいことが起こるはずだよね?!」
「ああ……一緒にいればな……!」
そう言って龍華は泣きじゃくりながら乞うミオの胸を一気に刺し貫いた。
実際にはものすごい音を立てて、ミオの後ろの床を大剣で殴っただけだが、観客にはまるで王女が刺し貫かれた様に見えた。龍華は泣きながら勝ち誇った。
「こうすれば、王女の命は永遠にオレのもんだ! もう誰にも触れさせねェ……! オレも触れることはできねェけどな……!」
夜陣は激昂した。
「お前……お前はっ……何てことを――――!
やはり魔物は何度生まれ変わっても魔物だな! 王女を殺されたこの恨み、お前を討伐することで、晴らさせてもらう!」
「ああ、いいーぜ。これで永遠にオレは王女と一緒のところに行ける」
「そんなに愛し合っているのなら、望み通り同じところへ行かせてやろう! さらば魔物よ、王女よ――――!」
勇者、夜陣の天をも貫く双剣の一振りで、魔物、龍華は一瞬にして崩れ去った。
夜陣が「王女のいない世界でこれからオレがいくら生きたってそれは生きてるとは言わないな……」と絶望を呟き、終幕した。
観客はバッドエンドにじゃっかん肩透かしを喰らったようだった。
「こりゃー明日も観るしかないな!」
「ふつうに切ない!」
などと感想を言い合いながら、講堂を出て行った。
「あっとあじ悪――」
屋上で、ひとり文化祭初日の片付けの様子を眺めている龍華。
「オレ、本当に悪役過ぎンだロ……。魔物とか……かっこ悪ィ」
「そんなことないよ! すごくかっこよかった!」
後ろから恥ずかしそうに接近して来たのはミオだった。
「ミオ……」
夕日に照らされたミオは龍華には本当に輝いて見えた。
「観てくれた人たち、皆そう思ったんじゃないかな? 私をぶっ刺すところ、かっこいいって!」
「ぶっ刺すって……皆とか、どーでもいーんだヨ! お前はその……どう思ったんだヨ?」
「えっ……私はいつも通りの龍華くんだって思ったよ!」
龍華は屋上の柵に寄り掛かって脱力した。
「いつも通りって……オレはミオにとって日常的に魔物なのかヨ……」
「そうじゃなくって……い……つもかっこいいって思ってるから……っ。だからいつも通り!」
「は?!」
「演技だったのかも知れないけど、私を見つめるまなざし、ちょーぜつ情熱的でかっこよかったよ! 龍華くんってめっちゃ演技上手いんだって思った!」
「……バァカ……演技じゃねェヨ。 素が出ちまってただけダ」
「えっ……それって……」
「ああ、好きだ、ミオ。やっぱお前は優しーわ」
長年の片思いの相手から告白されるという事態にミオは胸がいっぱいになったが、気付けば「返事はちょっと考えさせて」と言っていた。
「長年の片想い、叶って後は私がイエスの返事をすればいいだけ……。何より嬉しいはずなのに、私……おかしい」
ミオは一緒に初夜祭に出ようという龍華の申し出を断って、ひとり裏庭をふらふらしていた。
その目は少しだけ潤んでいた。
「どうして、どうして、オーケストラ部とのバトル以来、夜陣くんのことが頭から離れないの……」
ほぼ全校生徒を収容し、初夜祭は生徒会庶務でもある結束司会で進行していく。
「次は――――お待ちかね! 文化祭初夜祭の目玉!! ミスターコンとミスコンの時間だ!! 今年から投票制は廃止され、推薦の多かった候補者にランダムでお題に挑戦してもらい、優勝者がそのままミスター・ミスとなるぞ!! ではミスターの候補者を紹介する! エントリーナンバーワン、前年度ミスター、二年夜陣疾風!」
「わはは、前年度ミスターの夜陣だ。どんなお題が来ようと超万能型のオレには楽勝だ。ただ、キャタピラーレースだけは勘弁だが」
爆笑する観客席の生徒たち。
皆体育祭での夜陣のキャタピラーを思い出しているのだろう。
「エントリーナンバーツー、一年樹都織!」
にこにこと樹が壇上に現れた。
「樹です。打倒夜陣さんは積年の悲願――――なんちゃって。作曲と、人気投票と、ペーパーテストと運動以外では夜陣さんに勝てます!」
とたんに観客席からやじが飛ぶ。
「ほとんど勝てねーじゃねーか!」
「オレら夜陣がやられるところが見たいんだぞー! 積年の悲願やってくれー!!」
「あはー、夜陣さん嫌われてて燃えるなあ」
よく分からない興奮の仕方をする樹に夜陣はぞわっとした。
「だめだー、あの一年、夜陣信者だ!!」
絶望する観客。
「続いてエントリーナンバースリー!! 体育委員の肉体派!! ニ年柏手桜一朗!!」
オーケストラ部部長の長身がぬっと現れた。
「オレが二年柏手である! そう、オレは二年柏手! 皆が応援してくれれば、オレは負けない!」
夜陣が何言ってんだこいつ、という表情でかしわでを覗き込むと、柏手の目は泳ぎ、ガチガチに緊張しているようだった。
観客席の男子生徒たちが叫ぶ。
「柏手――!! むかつく夜陣をくだしてくれっ!!」
「頑張れ――!」
「そして最後の一人! エントリーナンバーフォーはっ! ……え?」
いきなり壇上で動揺し出す結束。
「何かの間違いじゃないの? これ」
ぼそぼそ言っている結束に観客席もざわざわし始める。
「早く発表しろぉ、結束ぁ――!!」
「何ためてるの、結束く――ん?!」
「じゃあ、言うよ?! 言っちゃうよ?!
エントリーナンバーフォーはっ! 二年龍華優雅だっ!!」
「ええええ――――?!?!」
驚きまくる二年の龍華を知る生徒たち。
わけがわからない様子の一年と三年。
「龍華先輩って、どんなイケメンなんだろう?」
「ばかっ、野生生物よ、あれは!!」
「野生? ワイルドってことですかぁ?」
「そんなワイルドなんて生易しいもんじゃないのよ、龍華は……」
するとドライアイスのスモークの向こうから、細身の長身が現れた。
龍華である。頭をぽりぽりしている。
「こゆ、目立ち方は向いてねーんダが……。龍華優雅ダ」
観客席の二年はあちゃーっとなっている。
龍華を初めて見る一年と三年の女子は落胆したようだった。
「名前が優雅って、どんなイケメンくんが出てくるのかと思ったら、あれじゃブサ……、良くて雰囲気フツメンですよぉ!」
「目つき悪――!!」
「なんか口調もおかしいし――!」
結束が慌てて取り繕うように言った。
「推薦者は主にモテない男子層らしい。同情票による選出だあああ!!」
龍華は結束の全然取り繕えていないひどい言い様に気を悪くした様子もなく、にやりと笑った。
「どんな機会だって、夜陣をくだせるチャンスがあるなら、逃しゃしねーよ。やってやる。どんなお題でも、夜陣にも誰にも負けねー」
舞台裏にいたレーレは不思議そうに呟いた。
「あいつは作曲以外は夜陣に負けようがどうでもいいくらいの勢いだったはず……。夜陣と出会ってからの半年であいつも成長してるってことか……」
「レーレさん! こちら初夜祭スタッフですが、レーレさんと同じくミス候補のミオさんがまだ来られないんですが、どこにいるか知りませんか?!」
「はああ? ミオが行方不明?!」
「ではお題を前年度ミスターの夜陣に引いてもらう!」
夜陣が自信満々にふんぞり返りながら、結束の持っているくじを引く。
書いてある文字を読み、ふんぞり返るのをやめて、青褪めた。嫌々といったようすで、読み上げる。
「牛乳の早飲みだ……」
それを聞いて、顔を輝かせる柏手。
樹、龍華もあまり嬉しくなさそうな顔をしている。
夜陣は「そもそも人前で飲むという行為はあまり美しくなく、ミスターのお題として不適切で……」などと言い出した。
「夜陣――! かっこ悪いぞ――!!」
「おとなしく柏手にやられろ――!!」
観客は大はしゃぎだ。
一人に付き、三本の牛乳瓶が用意された。
「レディ・ゴ――!!」
いっせいに飲み始める四人。
さすがにかしわでは早く、夜陣や樹が一本目の真ん中なのに、もう二本目に移っていた。
「ストップ! 最初に飲み終わったのは!!」
観客は呆然としている。
「二年龍華優雅だ――――!!」
龍華は皆が一本ずつ飲む中、三本まとめて飲んでいた。
夜陣はげっそりした顔で龍華を見やった。
「あいつ、大きいのは手だけじゃないのか……。口も大きいとか、気持ち悪っ」
「何とでも負け惜しめヨ、夜陣」
龍華は機嫌がよさそうだ。
結束が慌てて声を張り上げた。
「ええーと、つまり、今年度のミスターは……龍華!! 龍華優雅に決定だぁ――――!!」
ワアア――――と湧く会場。
「龍華先輩って人、ホントに飢えた野生生物みたいですね! かっこいい!」
「龍華ァ! お前はやる男だと思ってたぜ――!!」
観客は突然現れて、夜陣たちをくだした龍華に酔っていた。
一方、ミスコンの方はミオが戻って来なかったため、いまいち盛り上がらず、早書道対決でどぎつい個性を発揮したレーレが優勝した。準ミスはやはりアイドル部橋本であった。
橋本が「萌」と一文字書く間にレーレは「鍾乳洞」と三文字書いていた。
「文字書かせたら右に出る早さの者はいない、元寡黙のレーレちゃんだぜ、よろしくー」
レーレは自分でそう得意げに、優勝コメントをしたが、どこか寂しそうだった。
迎えた文化祭最終日。
この日は一騎当千フルオーケストラの男、龍華才雅が演劇を観に母校である青錆高校に再び現れ、ちょっとした騒ぎになった。
来客に次々とサインをねだられながらも、堂々と港内を練り歩いて黒川を探し当てる才雅。
「まりちゃん! 一緒に演劇観よう」
「うぬう。才雅め、うざいぞ。私は顧問として舞台袖から観るのだ。これは譲れんな! 勝手にひとりぼっちで観ていろ」
「観客席で一緒に観てきていいぜ! 黒川先生!」
「夜陣か! 余計なこと言うな。察しろ。緊張するんだよ……」
「でも黒川先生、嬉しそうだがな」
前の演目が始まり、劇を観る観客が並び始めた頃。
裏庭で最後の練習をしていたDTM部のところに唯一舞台裏で待機していた結束が血相を変えて駆け寄って来た。
「大変だ! 連日フル稼働してたミオ、講堂のクーラーが壊れた!」
顔色を変える夜陣たち。
「何だと?! まずいな。元々クーラーのない体育館と違って講堂に来る観客はある程度クーラーへの期待も持ってるはずだ。それが壊れたとなると……。今日の昼頃の予想気温は?!」
「三十度越えだそうだ!」
「せっかく私たちの出し物を選んで見に来てくれる人たちには快適に過ごして欲しかったね」
「とかいう次元じゃなく、クーラー前提の講堂で暗幕密室ぎゅうぎゅう詰めはまじで熱中症患者を出す危険があるぞ」
「そんなの出したら、優勝どころじゃなく、途中で上演中止になるかも知れないわ!」
「たくさん収容するためのぎゅうぎゅう詰め座席配置をやめて、ゆとり配置にするか?」
「だめダ! 収容人数ががくっとさがっちまウ!」
「だが、他に方法は……! いや、まだ方法はあるかも知れない! ピンチには連絡してこいって言った、イレギュラーに強そうなやつに訊いてみる」
神奈川商業施設乗っ取りステージ時に得た名刺に連絡して、『使えないスタッフ』雪道のアドバイスでミニ保冷剤を買い占めてくる夜陣。
「三百個買い占めた」
観客は入り口でミオかレーレから保冷剤をひとりひとつ配られ、何だか嬉しそう。
ミオは保冷剤を配りながら、見覚えのあるサイドテールに話しかけた。
「あ、橋本さん、見に来てくれたんだ。はいこれ、保冷剤よ」
「ミオに恵んでもらうなんて、屈辱ー! でももらうわ。ぶっちゃけ観てマイナス点を入れに来たのよ。あなたが出てる限り、やっぱり私は本心からマイナス点入れちゃう!」
「でもちゃんと観るのね。その心があるならきっと気が変わるわよ。あなたは自分に正直でいたいタイプだもの」
「なーに的確に分析してんのよ! ミオああ――! そういうところがむかつくのよ! てか何で昨夜の初夜祭いなかったのよ!」
レーレが割って入る。
「あいあいー、さっさと着席してくれい」
「むぅ……」
そして 上演が開始される。タイトルは「錆びない剣。」。
クライマックスへと進み、勇者夜陣と魔物龍華とのバトルシーンへ突入した。さすがに息の合っているふたり。
舞台袖では結束と樹がそれを満足げに見ていた。
「やはりチームワークは抜群ですね! 流れるように大剣と双剣のぶつかり合いが続いてます! 効果音のタイミングもばっちりだし、ここまでは順調ですね! あとは夜陣さんとミオさんがあのシーンをうまく演れれば、大成功ですね! ラストシーンで流す音響とミオさんの生歌でものすごい感動を呼びますよ!」
結束が応える。
「はは、いつになく饒舌だな、樹」
剣どうしが弾かれ、互いに距離をとるタイミングで、勇者役である、夜陣が叫んだ。
「なぜそうまでして、オレを付け狙う?! 森はお前ら魔物のテリトリー……そこから出てこない限り、魔物とはいえ、お前も生を得た者。オレとてお前の命など狙っていないと言うのに……!」
魔物役である、龍華が吼えた。
「オレはオレの為に貴様にトドメを刺ス! 許さねェ!」
「なぜだっ!!」
夜陣に寄り添って立っていた王女役であるミオが口を開いた。
「魔物は……自殺を志願して森に足を踏み入れ、殺してもらおうとする者が減っていったことを危惧してるの!」
「王女……下がっていてください。危険です! 自殺の志願者が減った……? それがオレと何の関係がある?!」
「勇者様は人々に希望を与える存在……あなたのそのあまりの美しさゆえに人々は希望を抱いてしまった……。それは森をも枯らした……。魔物の棲みかを……獲物を奪って……」
「そうだったのか……知らなかった……」
絶望する夜陣に龍華は鼻で笑った。
「ンなコトもはやどーでもいーんだヨ! オレは森も、人間も、もう欲さねェ! 貴様の、その隣にいる王女が手に入るならナ!」
夜陣は初めて本当に切迫した表情になった。
「な……それは……それだけは許さない! オレが人々の希望であるなら、王女はオレの希望なんだ! 彼女なしではオレは輝けない……勇者としての務めも果たせない……! それくらい、彼女に溺れてしまっているんだ! それに、彼女には大切な役割が……」
「うは。わっかりやすいナ。それ聞いちゃ、奪わないワケには行かねーわ。単純に剣と剣を戦わせ、最後まで立ってられた方が勝者だ! 王女を、オレらの全てを手にできる! それでいーだロ?!」
「ああ、いいだろう! 全てを賭けて、いざ!!」
ミオは力の限り叫んだ。
「勝って、勇者様――!!」
「ああ、必ず!」
ここから夜陣率いるDTM部皆の渾身の一曲、「フロント風雅」が流れ出し、ミオがそれに合わせて生で歌う。
観客のボルテージはマックスになり、最高のクライマックスを迎える。
そういう、予定だった。
講堂上演の部活のみが使える、巨大スクリーンは裏で結束が操作してミオをアップに映し出した。
荘厳な曲が響き始める。
「ーーーキミの為ならどんな花でも咲かせよう
そして誓った言葉は飾りじゃない きっと」
夜陣作曲のナチュラルなメロディから始まり、間に龍華作曲の尖った旋律を挟みながら、曲は進行していく。
徐々に盛り上がっていくその曲は夜陣と龍華の殺陣シーンに合わせてどんどん音圧を増していく。
「ーーー見え透いた嘘なんてやめて全て言って
どうか信じて私は平気だから
私の空白にキミは終わりを告げた
初めて淋しさという気持ちを知った だけど」
殺陣シーンを演じながら、夜陣と龍華は会話していた。
「やはり名曲だな、泣けてくるよ」
「ぬかセ! これからだロ、この曲は」
樹のギターソロとミオの歌い出しと共に、最大音圧の密なる部分へと移行する。
ミオのロングトーンで積み重ねてきた荘厳さが爆発する。
その刹那、突然伴奏が消えた。
低音域から高音域まで、密に詰まっていた伴奏が突然消えたのだ。
打ち合わせと違うアクシデントに一瞬歌を止めてしまいそうになるミオ。
反射的に夜陣を見ると、「止めるな、すぐに復旧するはずだ、樹と結束ならきっとやってくれる」と小声で言われる。
安心したミオはアカペラで堂々とサビを歌っていく。
「ーーーずっと感傷が募りもし涙となって溢れたならどうする?
誰も知らぬ地へとひとり発つしかない
ずっと守り続けた生きる糧は見えない明日なんかじゃない
きっと誰もが記憶の根を辿っては繋ぐ」
しかし、伴奏の音響は復活しなかった。
夜陣が舞台袖に叫んだ。
「どうなってる?! 早く復旧してくれ」
結束が叫び返す。
「それが、単に音響が止まっただけじゃなくて、そのショックでデータが飛んだみたいなんだ! 復旧は難しい!」
「だったら! パソコンを二台持って来い!」
「夜陣?! パソコンにも、データはもはや入ってないぞ?! ミオのアカペラで乗り切るしかない! 今レーレを出してハモらせるからそれでだいぶ違うはずだ。もうそうやって取り繕うしかない!」
「取り繕う? それで一位が取れるか!」
そう言いながらも結束とレーレは夜陣と龍華の前にパソコンを二台運んだ。
ミオのアカペラは続いている。
「ーーーどうか風を呼んで
どうか芽を摘まないで
まだつぼみだった
ずっと水を求めた
ずっと咲き誇りたい枯れ散りゆくべき時を迎えても
その目に一瞬の永遠を刻む」
夜陣は目をぎらりと光らせた。
「見せてやるよ……。劇なんかよりよっぽど本領発揮な、リアルタイム打ち込みショーをな! 龍華ァ!」
「オウ!」
「お前はSE担当だ! オレがオケを担当する」
「了解」
「結束ァ! スクリーンにオレと龍華の手元を映せ!」
「分かった!」
観客はざわざわし出した。
手に持っている保冷剤もだいぶ溶け出してしまっている。
「殺陣シーン中にパソコンを持ち出して、一体何を始めようって言うんだ……?」
「ミオちゃんのアカペラうますぎるよぉー」
「パソコンの画面に何も面白いもの映ってないぞー!」
龍華が
「『ドラムプリセット』」
と呟き、キーボードをカチッと押すと、次の瞬間何もなかった画面に一小節分のドラムパターンが出現し、ドラムらしい重厚なリズムを刻んだ。
そのたった一小節が終わらない内に龍華は今度は、
「『コピペ』」
と呟き、またキーボードをカチッと押した。
すると一小節が四小節に増殖した。
「ーーーキミはいつでも本当の気持ちを誰かに
見透かされることを何より恐れる
曝け出した剥き出しの強さを弱さを
分かち合うことができるのか知りたい いつか」
Tシャツの樹がギターを持って舞台端に登場した。
「おっ、技名言ってく感じすか。じゃ、オレも、『コード・バッキング』!」
ジャラーン! と洒落たアコースティック・ギターの三和音が響き渡り、その後もジャキジャキジャキジャキとギターは刻んでいく。
レーレも舞台端に登場すると、演奏中の樹につつかれた。
「技名、言うんすよ」
「バトルマンガじゃねーよ、くっ、恥ずかしいな、『主に三度下ハモり!』」
そう宣言すると、ミオのソプラノより三度下の音程でハモり始めた。時々二度や四度も織り交ぜて変化も加えている。
ドラムとギターとハモりでまたたく間に曲は重厚さを取り戻した。
「ーーーずっと感傷が募りもし涙となって溢れたならどうする
この腕の中で笑顔探してみればいい
ずっと守り続けた生きる糧は見えない明日なんかじゃない
今日をあなたが居てくれたから泣いていられる」
その頃には龍華は終曲までのドラムパターンを全て打ち込み終わり、サビには大胆なアレンジを加えるまで終わっていた。
龍華は呟く。
「『スキマフィル』」
そして、曲のフレーズとフレーズの繋ぎの部分に次々とキラキラした流れ星のようなウィンドチャイムのメロディを挿入した。
観客は生での即興に興奮していた。
「すげーっ! ほんとにリアルタイムで打ち込みしてる!」
「息もぴったりだ!」
「おい、まだ二番の途中だっていうのに、龍華は最後まで作り終わったみたいだぜ!」
「それに比べて夜陣! 何してるんだぁ――!!」
夜陣はにやりと笑う。
「『リアルタイム・コンポジション』」
サビ前フィルが鳴り渡り、ミオの悲鳴にも似た高音と共に、曲は大サビへと突入した。
その瞬間、観客は千人以上のオーケストラ軍団が舞台にいるかのような錯覚に襲われた。
夜陣がひとりで、全ての音をほぼリアルタイムで鳴らしている、というか打ち込んでいる、ということに遅れてやっと気付いた観客は大熱狂した。
夜陣はトランペットには主旋律を鳴らす信号を与え、サックスにはそのハモリを鳴らす信号を与え、バイオリンには超高音の裏旋律を鳴らす信号を与え、コントラバスにはその裏旋律の三オクターブ下を鳴らす信号を与え、ベースにはコードのルート音を鳴らす信号を与え、チェロにはカウンターラインと呼ばれる、樹のギターコードバッキングを補佐する信号を与えていた。
これだけのことを、パソコンが運ばれてきてからの一分足らずでやってのけたのだ。
さらに龍華が講堂隅に常備されているピアノで怒涛の追撃をする。
右手での超絶技巧と左手でのアルペジオ。それも音の中音域の厚みの一部となった。
「夜陣――!! 龍華ァ――!!」
「お前らが最高最速のコンポーザーだぁぁ――――!!」
「リアルタイム・コンポジションの名、覚えたぞ――――!!」
「ーーーどうか夢を見せて
どうかまだ折らないで
まだここにいたい
ずっと陽を浴びていたい
ずっと咲き誇りたい枯れ散りゆくべき時を迎えても
きっと花は二度咲きキミを満たすだろう」
観客席で観ていたアイドル部橋本は先ほどから涙が止まらない。
保冷剤を巻いたハンカチで何度も頬を拭った。
「壮大な染み入るストーリー! 中核を担うはミオね……私の萌えボイスとは違う、澄み渡る声……! 圧巻よ。投票するわ。私を弟子にしてっ……!」
観客のひとりとして来場し、演劇を観ていた龍華才雅は人知れず、呟いた。
「おいおい、夢か? 今オレはざっと三千人規模のオーケストラ軍団を幻視したんだが? はは、見せ付けてくれるな。人と協力するってことはこんなにも強いパワーを生むっていうのかい? ……優雅。そして夜陣くんたち」
夜陣は首をかしげた。
「ふむ。完全再現のつもりが本来用意していた伴奏音源よりだいぶ音数を増やしてしまったな。つまり伴奏音源を超えた演奏ということだ。この即興と同じものは恐らく二度とできまい。今日この劇を観てたやつらはラッキーだな」
夜陣が役目は終わったといわんばかりの口調だったので、結束は慌ててナレーションを入れた。
「そして、ふたりの男の視線がぶつかり合い、互いに大きく跳躍して、大剣と双剣が交わり、最初に倒れたのは……」
夜陣、龍華、ミオは劇途中だったことを思い出し、演技に戻った。
「勇者様っ!! 私……信じてました! あなたが呪いと言うハンデを負っていても、きっと勝って下さるって……」
夜陣はにっこり笑って剣を鞘に収めると、ミオに向き直った。
「その思いがあったから、オレは勝てたんだよ。さて、その呪いを解く方法がひとつだけある」
「えっ……」
「呪いを刻んだ魔物が死んだ以上、オレは愛する人とのキスで呪いを解くことができる。
ミオ……もし、キミの気持ちがオレと同じなら……」
舞台袖で聞いていた樹がぴくりと反応した。
「あれ? 夜陣さんったら、呼び方を間違えましたね。
そこは"ミオ"でなく、"王女"でしょう」
ミオは夜陣をうっとり見上げて言った。
「同じ気持ちです。どうか……どうか私に口付けて下さい」
「ありがとう。
これでオレは人と同じ寿命で生きることができる……」
ミオの肩に手を置いて、ゆっくり顔を近付ける夜陣。
ミオは観客に背を向けていて、その表情は解らなかったが、正面を向いた夜陣の表情は、とても穏やかな愛しい者を見つめるかのようなそれだった。
そして次の瞬間。
「全く、キスシーンのフリなど、さっさと終わらせちまエ。夜陣も役得だナ。って何――――?!」
「夜陣さ……ってええ?!」
夜陣は本当にミオに口付けた。
それも数秒間、たっぷり口付け、ミオの紅の付いた、柔らかい唇の感触を味わっていた。
観客はがやがやし出した。
「あれ、ホントにキスしてねーか?」
「まさかーでも長いねー」
ミオといえば、予想外のアドリブにあっぷあっぷしていたところに、本当にキスされ、混乱のさなかだった。
「ミオ、お前が大事だ。
これからも、もっと長い間、一緒に時を過ごして、オレの歌を歌い続けてくれないか」
「……い……いよ…………夜陣くん……っ」
隠してきた、ミオの本音が漏れたようだった。
結束は慌てた。
「あのふたり、劇のアドリブなんかじゃない、本気で……!」
樹は飄々としている。
「あちゃーここで告白し合っちゃいましたか。ちょっとだけ、本気で好きだったんだけどなぁ、ミオさん……」
舞台の端に倒れ伏す龍華も、今生の悔しさを噛みしめるかのような表情をしていた。
ふたりが抱きしめ合い、ミオが荘厳に歌い、夜陣の呪いの証であるタトゥーシールを剥がしたところで、幕は降りた。
観客は、
「あの勇者と王女の名前、そのまんまヤジンとミオって言うんだねー」
「ベタにすごくあつあつなラストだったなー」
などと、劇が終わっても余韻に浸っていた。
樹が最後の舞台挨拶で、へらへらしながら、
「オレが半年間想いを捧げてきた女性は今、勇者に取られました。皆サマ、流ミオと夜陣疾風に盛大な拍手をお願いします!
あ、あと魔物役の龍華にも」
と叫んだ為、観客は、
「あれ、まじ告りかよ――?!」
「いや――っ! 夜陣く――ん!!」
「じゃあ、ホントにキスしてたのか?! 羨ましいぞ、ばかやろ――――っ!」
と、大いに盛り上がった。
文化祭の片付け作業が進む中、ミオは戦々恐々としていた。
女は作曲の道具という夜陣のことだ。
演劇で一位を取るため、臨場感を出すためににミオに嘘告白したのだ、などと言い出しかねない。
その場合、長年片想いしてきた龍華を裏切った自分は何なのか、ということになる。
「あの……夜陣くん」
「ああ、お前はよくやってくれたよ。
だから、オレの彼女で構わないぞ」
「それって、その方が都合よく私を使えるから?」
夜陣は面倒そうな目でミオを見た。
「言わなきゃ分からんのか……。オレは海でお前に惚れたんだ。いや、気付かなかっただけで、ずっと気になってたのかも知れん。別に本来女子の声帯が圧迫されてたって、それを拾い上げようとは思わんしな」
ミオは初対面時、取り巻きには夜陣はとても優しかったのを思い出していた。
「つまり、夜陣くんは根っこの部分はドSってことね」
「表面上もそうだぞ? オレの辞書のどこにもMとかF……つまり普通は存在しない」
「普通は存在してよ!」
「ミオ!」
龍華が近寄ってきた。
「昨日は悪かった。これからも……オレの曲を歌ってくれるか?」
「もちろんだよ、歌わせてくれること、感謝してる」
夜陣は二人のやりとりを聞いて面白くなさそうな顔をしたが、特に文句は言い出さなかった。
後日黒川が声高々に発表した。
「出し物集客数でDTM部は圧倒的一位だったそうだ。おめでとう!」
「やったー! 賞金だ!!」
夜陣も大いに喜んだ。
「賞金はぱーっと……」
「ぱーっと?」
「新しいDAWソフトを買うのに使うぞ!」
夜陣以外の面々はひっくり返った。
「初めから、そのつもりだったのね!」
「新しいDAWソフトのために一生懸命演じてくれてありがとう皆!」
「爽やかに言うなっ」
「ところで夜陣。色んなところからオファーが来てるぞ。私のところに連日主に音楽のプロデューサーを名乗る者が訪れてる。そのリストを渡すから契約したいと思うものがあったら」
「いらないです。今は大学行くんで」
「は?!いやいや中には普通なら欲しくてたまらないような好条件のものもあったぞ」
「それに残り少ない高校生活は、DTM部の仲間たちと曲を作って過ごしたいんですよ」
あくまで突っぱねる夜陣に黒川はDTM部の面々を見て、「お前たちにも個別で来てるぞ。蹴っていいのか?」と問うた。
「夜陣が蹴るのにオレが受けたら夜陣以下みたいになるダロ」
龍華はひねくれた発言をしたが、顔は笑っている。
「リーダーが言うなら、異議を唱えるつもりはないのぜ」
レーレが龍華の発言を通訳した。
「そう、つまり、オレたちが認められたいのはただ一人……」
そう言って夜陣は意味ありげに黒川を見つめた。
黒川は観念したように言った。
「あいつは、才雅は『錆びない剣。』は自分を越える伝説への序章になるだろう、って認めていたよ」
五年後。
「今夜はグラミー賞受賞の二人組ユニット、『ラスティ星夜』の凱旋帰郷ライブを生放送でお届けします! おふたりを出迎えるゲストアーティストは今最も熱いフォーピースバンド、『レーレルールズ』! では、いよいよ始まります! 一曲目は『ラスティ星夜』が高校時代の思い出深いと語る『オーシャン・アパート』です!」
アシンメトリーな髪型の男が現れ、ふっと笑った。
「お前らの遺伝子、今からオレの曲で揺らがせてやるよ」
11/11ページ
