錆びない青。
ヒロイン名
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今日はピアノの発表会!
私は小学三年生だから、かなり年下の方だって、先生言ってた。
「次はプログラム08番。流ミオさんの演奏です」
うん、けっこう上手く弾けた。
間違えなかったし、100パーセントに近い演奏だと自分でも思った。
きっと緊張しない体質なのも、よかったのかも。
そして、私は観客席にもどり、やや退屈な思いを殺しながら生徒たちが次々に弾いていくのを、待っていた。
あとちょっとで最後のひと。
そう分かってるのに眠いのをこらえられず、うとうとしてしまった頃。
あまりの音量と音符の数、それでいてがっちり全部の音を押さえてる響きに私は一瞬で目が覚めた。
最後にあるっていう、先生どうしの連弾になったんだと、思った。
今までとは別のピアノを使ってるんじゃないかっていうくらい、てかホントにそう思っちゃった。
もうピアノ自体一回り大きくなったように感じられたんだもん。
先生、別のピアノ使うなんて、ずるい。
上手く聴こえるに決まってるじゃん。
そうかすかな不満を抱いて、舞台を見上げる。
弾いていたのはたったひとり。
信じられないくらい、目つきが悪くて、痩せてる男の子。
私と同い年くらい。
先生の連弾だと思った響きは、その男の子がひとりで作り上げた響きだった。
別次元。
演奏が終わって、その男の子が表彰される為に再び舞台に上がっても、私は震えが止まらなかった。
帰り道。
「待って!」
「誰、お前、あ、さっき弾いてた?」
「うん、だけど賞はとれなかったの。たちばなくんっていうんだよね? パンフレット見たら同い年って書いてあった。それなのに、あの音……ホントにすごいね!」
「アー、練習したから」
「練習はみんなしてるよ」
「そうだナ」
「ねぇ、どんな練習してるの? 私もあなたみたいにうまくなりたいよ」
「アー、削ぎ落とす練習だな」
「え?」
「ピアノ以外をぜんぶ削ぎ落とすんだ。……つまり、授業中もこっそり音楽の勉強するんだ」
「そういうこと。アドバイスありがとう! 私もがんばるよ」
「お前、ピアノやってるのにおれの演奏聴いてもぜつぼう感とか、ねーのナ」
「たちばなくんの演奏には、希望がつまってるよ!」
「おもしろいな、お前」
その時、私のお迎えが来て、たちばなくんはそのまま去っていってしまった。
そして、私はだんだん音楽の時間とかで、自分が人よりたかく歌えることに気付いた。
生まれ持った声質だと思う。
はじめからもらえていた皆が欲しがる高音の切符。
簡単にたかく歌えるのが楽しくて、つらい、人よりうまくもなれないピアノから気持ちが離れていくのを感じていた。
「ミオちゃん、あなた、歌ってるんですって?」
「ピアノの先生……」
「ピアノの為には、ボーカルの練習はやめなさい。クラシックか、大衆音楽か。ここが分岐点よ。この先じゃ、もう遅すぎることになる。あなたがやりたいのは、どっち?」
ボーカル! って言いたかった……。
でも言えなかった。
なぜか、言えなかった。
それで、ピアノをばっくれた。
中学生になって、自分の容姿も優れていることに気づいた。
こっそり歌手のオーディションを受ける。
だけど、何だろう?
課題曲がどれもうまく歌えない……。
緊張はしてないのに。
喉の奥からは、くぐもった声。
どうして?
「ミオさん、あなたは本当に歌手としてやっていく覚悟はありますか?」
あります! って十人中十人がいうであろう、審査員からの質問の場面。
こんな歌がへたなのに、言えるわけない……。
萎縮しちゃって、言えなかった。
私が退室してドアを閉めるのを待たずに「あの子、声は抜群だけど、やる気ないよね」と言われてるのが聞こえた。
オーディション結果の紙を、握りつぶす。
友達には、歌手とか、何の興味もないよーって顔して。
もったいなーい、って言われて、そう? ってにこにこ微笑むキャラで。
平凡な人生でいい。
それでもつらつら歌詞らしきものを書き溜め続けていたのは、なぜ?
十枚や、二十枚じゃきかない枚数になっていったのは、なぜ?
高校生になって、ミスコン予選が始まり、その一連の活動にそれなりの楽しさを見出した。
校内ミスでいいや。それでちやほやしてもらって、普通に大人になっていくんだ。きっと私のキャパってそれくらい。
そうだ、龍華くんを応援しよう。
またコンクールで優勝したらしいし。
きっとピアニストになるのが夢なんだよね。
誰かを応援するのって、楽しい。
私と違って才能のある龍華くんにこそは、夢を叶えてほしい!
そんな感じで日々は過ぎていき、あっけなくミスコン優勝して。
次はどんな遊びをしようかな? って手始めにアシンメトリーな髪型のミスターに話しかけてみた。
そしたら優勝した気持ちに水を差された。
私の声帯が圧迫されてる、とか、大食いとか、好き勝手ディスってくれちゃって。
夜陣疾風むかつく。
こんなに出逢った時に感情揺さぶられたのは、龍華くん以来だわ。
脳裏にちらちらよぎる夜陣も、もし龍華くんと付き合えたらきっと消えるの。
一生懸命書いた龍華くん宛のラブレターは、龍華くんでなく、一番嫌な夜陣に読まれた。
私に興味なんてないくせに、どうして読むの……。
そしたら曲をあてがわれて。
夜陣の作った曲はすごく歌いやすくて、高くて、自然に発声できた。
私にも、できる気がした。当たって、砕けること。
そして、世界に通用する歌姫にしてやるって言われた。
ピアノの先生にも、オーディションでも言えなかったイエスが言えていた。
だってあいつは自信満々で、全てを見透かしてくるから。
あいつの手を取らなかったら、この先どんな安全な選択も、危険な選択もできなくなる、って直感したんだもん。
私が歌詞を書き溜めていたのは、高音で生まれて来たのは、もしかしたらあいつの為……。
っていうのは本当に世界とったら口にしてやるわよ。
私は小学三年生だから、かなり年下の方だって、先生言ってた。
「次はプログラム08番。流ミオさんの演奏です」
うん、けっこう上手く弾けた。
間違えなかったし、100パーセントに近い演奏だと自分でも思った。
きっと緊張しない体質なのも、よかったのかも。
そして、私は観客席にもどり、やや退屈な思いを殺しながら生徒たちが次々に弾いていくのを、待っていた。
あとちょっとで最後のひと。
そう分かってるのに眠いのをこらえられず、うとうとしてしまった頃。
あまりの音量と音符の数、それでいてがっちり全部の音を押さえてる響きに私は一瞬で目が覚めた。
最後にあるっていう、先生どうしの連弾になったんだと、思った。
今までとは別のピアノを使ってるんじゃないかっていうくらい、てかホントにそう思っちゃった。
もうピアノ自体一回り大きくなったように感じられたんだもん。
先生、別のピアノ使うなんて、ずるい。
上手く聴こえるに決まってるじゃん。
そうかすかな不満を抱いて、舞台を見上げる。
弾いていたのはたったひとり。
信じられないくらい、目つきが悪くて、痩せてる男の子。
私と同い年くらい。
先生の連弾だと思った響きは、その男の子がひとりで作り上げた響きだった。
別次元。
演奏が終わって、その男の子が表彰される為に再び舞台に上がっても、私は震えが止まらなかった。
帰り道。
「待って!」
「誰、お前、あ、さっき弾いてた?」
「うん、だけど賞はとれなかったの。たちばなくんっていうんだよね? パンフレット見たら同い年って書いてあった。それなのに、あの音……ホントにすごいね!」
「アー、練習したから」
「練習はみんなしてるよ」
「そうだナ」
「ねぇ、どんな練習してるの? 私もあなたみたいにうまくなりたいよ」
「アー、削ぎ落とす練習だな」
「え?」
「ピアノ以外をぜんぶ削ぎ落とすんだ。……つまり、授業中もこっそり音楽の勉強するんだ」
「そういうこと。アドバイスありがとう! 私もがんばるよ」
「お前、ピアノやってるのにおれの演奏聴いてもぜつぼう感とか、ねーのナ」
「たちばなくんの演奏には、希望がつまってるよ!」
「おもしろいな、お前」
その時、私のお迎えが来て、たちばなくんはそのまま去っていってしまった。
そして、私はだんだん音楽の時間とかで、自分が人よりたかく歌えることに気付いた。
生まれ持った声質だと思う。
はじめからもらえていた皆が欲しがる高音の切符。
簡単にたかく歌えるのが楽しくて、つらい、人よりうまくもなれないピアノから気持ちが離れていくのを感じていた。
「ミオちゃん、あなた、歌ってるんですって?」
「ピアノの先生……」
「ピアノの為には、ボーカルの練習はやめなさい。クラシックか、大衆音楽か。ここが分岐点よ。この先じゃ、もう遅すぎることになる。あなたがやりたいのは、どっち?」
ボーカル! って言いたかった……。
でも言えなかった。
なぜか、言えなかった。
それで、ピアノをばっくれた。
中学生になって、自分の容姿も優れていることに気づいた。
こっそり歌手のオーディションを受ける。
だけど、何だろう?
課題曲がどれもうまく歌えない……。
緊張はしてないのに。
喉の奥からは、くぐもった声。
どうして?
「ミオさん、あなたは本当に歌手としてやっていく覚悟はありますか?」
あります! って十人中十人がいうであろう、審査員からの質問の場面。
こんな歌がへたなのに、言えるわけない……。
萎縮しちゃって、言えなかった。
私が退室してドアを閉めるのを待たずに「あの子、声は抜群だけど、やる気ないよね」と言われてるのが聞こえた。
オーディション結果の紙を、握りつぶす。
友達には、歌手とか、何の興味もないよーって顔して。
もったいなーい、って言われて、そう? ってにこにこ微笑むキャラで。
平凡な人生でいい。
それでもつらつら歌詞らしきものを書き溜め続けていたのは、なぜ?
十枚や、二十枚じゃきかない枚数になっていったのは、なぜ?
高校生になって、ミスコン予選が始まり、その一連の活動にそれなりの楽しさを見出した。
校内ミスでいいや。それでちやほやしてもらって、普通に大人になっていくんだ。きっと私のキャパってそれくらい。
そうだ、龍華くんを応援しよう。
またコンクールで優勝したらしいし。
きっとピアニストになるのが夢なんだよね。
誰かを応援するのって、楽しい。
私と違って才能のある龍華くんにこそは、夢を叶えてほしい!
そんな感じで日々は過ぎていき、あっけなくミスコン優勝して。
次はどんな遊びをしようかな? って手始めにアシンメトリーな髪型のミスターに話しかけてみた。
そしたら優勝した気持ちに水を差された。
私の声帯が圧迫されてる、とか、大食いとか、好き勝手ディスってくれちゃって。
夜陣疾風むかつく。
こんなに出逢った時に感情揺さぶられたのは、龍華くん以来だわ。
脳裏にちらちらよぎる夜陣も、もし龍華くんと付き合えたらきっと消えるの。
一生懸命書いた龍華くん宛のラブレターは、龍華くんでなく、一番嫌な夜陣に読まれた。
私に興味なんてないくせに、どうして読むの……。
そしたら曲をあてがわれて。
夜陣の作った曲はすごく歌いやすくて、高くて、自然に発声できた。
私にも、できる気がした。当たって、砕けること。
そして、世界に通用する歌姫にしてやるって言われた。
ピアノの先生にも、オーディションでも言えなかったイエスが言えていた。
だってあいつは自信満々で、全てを見透かしてくるから。
あいつの手を取らなかったら、この先どんな安全な選択も、危険な選択もできなくなる、って直感したんだもん。
私が歌詞を書き溜めていたのは、高音で生まれて来たのは、もしかしたらあいつの為……。
っていうのは本当に世界とったら口にしてやるわよ。
