君寵に浴する花
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「初耳ですよ。あなたに花を愛でる趣味がおありだったとは」
任務報告に訪れたジェイドは、執務机に飾られた花を一瞥すると、開口一番そう言った。
「おい、嫌味か?」
「いいえ。それにしても……紫陽花、ですか」
差し出された報告書を態とらしくふんだくると、やれやれと眉を下げる。
含みのある物言いは、紫陽花を一目見ただけで何かに気付いたようだった。
これだからやたら勘のいい奴は好きじゃない。
「お前もまた青だのピンクだの花言葉がどうのこうのと言うんだろ?」
「おや、ご存じでしたか」
「まあな。たった今、ナマエから聞いたばかりだ」
「そうでしたか」
机に一輪飾られているのは“青い紫陽花”。
ナマエと別れた後、執務室に戻る道すがら、庭木の傍で咲き誇る青い紫陽花を迷わず一輪手折った。
「ナマエに、お前の中にはどちらの色の花が咲いているのかと尋ねたら、なんて言ったと思う?」
「さあ。なんと?」
「あいつ……『どちらでしょうね』と分かりきった顔をしながら誤魔化しやがった」
「彼女らしいですね。……ですが、陛下も同じようなものでは?」
相変わらずこいつは涼しい顔で酷なことを言う。
その一言に反論できるはずがなかった。
俺の中にもまだ、彼女と同じ色の花が絢爛と咲き乱れているではないか。
「そうだな」と呆れたように零し、窓の外へ視線を逃す。そこには相変わらず庭仕事に精を出すナマエの姿が見受けられる。
いまでも彼女の中に咲いているのはアスランへ向けた花だ。
俺への花など蕾であるに違いない。
……いや、蕾どころか、芽吹いてすらいないのかもしれない。
「あなたらしくないですね。皆、いずれ飽きるものと考えているから黙認しているのですよ?」
「……分かっている」
「そうでしょうか? 随分、拘泥しているようにお見受けしますが」
「分かっていると言ってるだろ……!」
「でしたら結構」
語気を強めて反論しても全く臆する様子のないジェイドは、相変わらず薄っぺらい笑みを貼り付けていた。
椅子の背もたれにふんぞり返り、荒ぶった感情を宥める。
何故、俺はこうも感情が乱れたのだろうか?
ジェイドの言葉を借りるわけではないが、確かに“俺らしくもない”。
「ご存じですか? 紫陽花は色を変えて咲きますが、土壌が変わると花が咲いた状態でも色を変えるそうです」
「っ! そうなのか?」
「ええ。それなりに時間はかかりますが」
もたれていた椅子から弾かれたように上体を起こす。
「まるで、人の心そのものではありませんか」と、ジェイドはさも興味なさげに嫌味のように言ってのけた。
心を見透かされているようで気に食わないが、こればかりは仕方ない。それほど今の俺は分かりやすい反応をしてしまったのだから。
「中には白い紫陽花も存在するようですよ」
「白?」
「なんでも、白い紫陽花は品種によっては土壌に関係なく色を変えないとされています」
ならばいっそ、庭中の紫陽花を白いものに植え替えてしまおうか。
まったく……実に馬鹿馬鹿しい。
先程ジェイドに釘を刺された通り、たかが花の一つに拘泥する自分が今更ながらに可笑しく思えてならなかった。
「色を変えない、か……それはそれでつまらんな」
「あなたなら、そう仰ると思いましたよ」
彼女の中で咲く花が、どのような物でどんな色であったとしても──俺を思いながら芽吹いた花ならば大層美しいだろうさ。
その頃には、俺は──果たしてどんな顔をしてその花を眺めているのだろうか。
20260624
任務報告に訪れたジェイドは、執務机に飾られた花を一瞥すると、開口一番そう言った。
「おい、嫌味か?」
「いいえ。それにしても……紫陽花、ですか」
差し出された報告書を態とらしくふんだくると、やれやれと眉を下げる。
含みのある物言いは、紫陽花を一目見ただけで何かに気付いたようだった。
これだからやたら勘のいい奴は好きじゃない。
「お前もまた青だのピンクだの花言葉がどうのこうのと言うんだろ?」
「おや、ご存じでしたか」
「まあな。たった今、ナマエから聞いたばかりだ」
「そうでしたか」
机に一輪飾られているのは“青い紫陽花”。
ナマエと別れた後、執務室に戻る道すがら、庭木の傍で咲き誇る青い紫陽花を迷わず一輪手折った。
「ナマエに、お前の中にはどちらの色の花が咲いているのかと尋ねたら、なんて言ったと思う?」
「さあ。なんと?」
「あいつ……『どちらでしょうね』と分かりきった顔をしながら誤魔化しやがった」
「彼女らしいですね。……ですが、陛下も同じようなものでは?」
相変わらずこいつは涼しい顔で酷なことを言う。
その一言に反論できるはずがなかった。
俺の中にもまだ、彼女と同じ色の花が絢爛と咲き乱れているではないか。
「そうだな」と呆れたように零し、窓の外へ視線を逃す。そこには相変わらず庭仕事に精を出すナマエの姿が見受けられる。
いまでも彼女の中に咲いているのはアスランへ向けた花だ。
俺への花など蕾であるに違いない。
……いや、蕾どころか、芽吹いてすらいないのかもしれない。
「あなたらしくないですね。皆、いずれ飽きるものと考えているから黙認しているのですよ?」
「……分かっている」
「そうでしょうか? 随分、拘泥しているようにお見受けしますが」
「分かっていると言ってるだろ……!」
「でしたら結構」
語気を強めて反論しても全く臆する様子のないジェイドは、相変わらず薄っぺらい笑みを貼り付けていた。
椅子の背もたれにふんぞり返り、荒ぶった感情を宥める。
何故、俺はこうも感情が乱れたのだろうか?
ジェイドの言葉を借りるわけではないが、確かに“俺らしくもない”。
「ご存じですか? 紫陽花は色を変えて咲きますが、土壌が変わると花が咲いた状態でも色を変えるそうです」
「っ! そうなのか?」
「ええ。それなりに時間はかかりますが」
もたれていた椅子から弾かれたように上体を起こす。
「まるで、人の心そのものではありませんか」と、ジェイドはさも興味なさげに嫌味のように言ってのけた。
心を見透かされているようで気に食わないが、こればかりは仕方ない。それほど今の俺は分かりやすい反応をしてしまったのだから。
「中には白い紫陽花も存在するようですよ」
「白?」
「なんでも、白い紫陽花は品種によっては土壌に関係なく色を変えないとされています」
ならばいっそ、庭中の紫陽花を白いものに植え替えてしまおうか。
まったく……実に馬鹿馬鹿しい。
先程ジェイドに釘を刺された通り、たかが花の一つに拘泥する自分が今更ながらに可笑しく思えてならなかった。
「色を変えない、か……それはそれでつまらんな」
「あなたなら、そう仰ると思いましたよ」
彼女の中で咲く花が、どのような物でどんな色であったとしても──俺を思いながら芽吹いた花ならば大層美しいだろうさ。
その頃には、俺は──果たしてどんな顔をしてその花を眺めているのだろうか。
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