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真に人を殺すのは退屈だという。
まさかピオニー陛下の退屈を凌ぐために私が殺される側に回るとは微塵も思わなかった。この瞬間までは。
明日帰還予定だと聞かされたばかりだったのに、まさか今このタイミングで大佐が現れるとは想定外も甚だしい。
そして、この地獄絵図である状況を破ったのは大佐のため息だった。
「はぁ……これは一体何をしているのか聞くべきですか?」
取り乱すでもなく、ただため息をついて呆れた様子を見せるのは実に彼らしい反応だったけれど、その眼差しは言うまでもなく冷え切っていた。
燃えるような赤い瞳で、凍てつくような視線を向けられるというアンバランスさに体が縮み上がる。
それでも、彼の射竦めるような視線に臆せず言葉を返す陛下は流石としか言いようがない。
「早かったな。帰還は明日の予定だろう?」
「ええ、予定よりも早く片付きましたので。報告書をお持ち致しました」
「そうか。机に置いておけ。後で目を通しておく」
大佐は陛下の指示通り報告書を机の上に置く。
その間も私は身の振り方が分からずメイドコスチュームのまま固まっていて、目線だけを二人の会話に合わせて動かしていた。
確かに普段通りの会話であるのに、どこか空気が張り詰めているのは気のせいではない。
「……随分とお楽しみ中のようですね」
「そうだろう? だから、お前はもう下がっていいぞ。ご苦労」
「ひょえ!」
言って、陛下は背後から片腕を回し私を抱き寄せる。
今、陛下がどんな表情をしていて、何をお考えになっているかなど分からない。
ただ、向かいに立つ大佐の表情がわずかに曇り、ぴくりと眉が動いた事を思うと、きっと挑発的な顔をしているのだろう。
そんな中、陛下に片腕を回されて軽く拘束されてしまった私といえば「あ」だの「う」だの言葉にならない声を漏らして混乱の渦中にいた。
何が何やら、私は本日二度目の思考放棄真っ最中。
「陛下、ナマエを離して頂けますか? お戯れがすぎるかと」
「断る。こいつは今日一日俺の側付きにした」
「そのような格好で、ですか? そもそも側付きの話は伺っておりませんが」
「ああ。今俺が決めた」
陛下の声は心なしか弾んでいるようだ。これは楽しんでいる。
皇帝陛下という肩書を乱用して一方的な言葉を並べているけれど、大佐はそれを受け流しながらも決して承知する様子はない。
間に挟まれる私にとってはまるで地獄だ。口を挟むわけでもないのにこの場の空気に圧され息苦しくてかなわない。
「顔が怖いぞ、ジェイド。返して欲しいなら素直にそう言え」
「……そうですね。では、返して頂けますか? 彼女は私の補佐官ですから」
大佐はいつもの貼り付けた笑顔で言った。
ただ、見た目がにこやかなだけで内心とは裏腹であることを私は知っている。今までもそうだったからだ。
その証拠に私を“妻”とは呼ばない。便宜の呼称である“補佐官”と口にした時点でこれ以上の陛下の言及を拒否しているのだろう。
「つまらん理由だな」と答えた陛下の声音には呆れと落胆が混じっているようだと感じた。
ここまで陛下へと向けられていた視線が不意に私を捉える。
やましい事はない――とは言い切れないだけに、体が反射的に強張る。
「ナマエ、いつまでそうしているんです? こちらへ来なさい」
「は、はいっ!!」
『こちらへ来なさい』
その一言でいつもの大佐とは違う温度差を感じ、震え上がった私は光の速さでピオニー陛下の元から大佐の傍へと移動した。
「軍服はどこですか?」
「あ、あっちの部屋に……」
執務室から続く別室の扉を指さすと、部屋に入り手早く私の軍服を回収した大佐は陛下に一礼する。
その顔には変わらず笑が浮かんだままだ。
「では、用も済みましたので失礼致します陛下」
「し、失礼致します!」
大佐につられて私も一礼をし、後を追う。
「全く、俺の楽しみを取りやがって」
(まあ、あいつがあんな顔をしただけでも収穫はあったか……)
締まった扉を見つめながら独りごちる陛下の言葉は私達に届くことはない。満足げに緩んだ表情もまた。
***
いつかもこんなふうに、大佐の物言わぬ背中に怯えながら廊下を歩いた記憶があった。
あの時は何をしでかしたのだっけ?
――ああ、そうだ。あの時は確かガイに無断で私達の関係を話そうとして灸を据えられた。
けれどあの時と決定的に違うのは私を補佐官と称し、腕すらも引いてくれない事だろうか?
それも仕方がない。
くれぐれも面倒は起こすなと釘を刺されていたにもかかわらず、一方的とはいえ言いつけも守れずに陛下とお楽しみ中だったのだから。救いようがないのだ。
「あの、大佐……」
「言い訳は結構。早くその格好をどうにかしてください」
「……はーい」
大佐は一瞥もくれず素気無く言う。
取り付く島もないとはまさにこの事だろう。
言い訳のひとつでもさせてくれたらこの胸に居座る罪悪感も少しは薄れたかもしれないのに、それを赦してくれないのがジェイド・カーティスという男なのだ。
軍服を抱える腕にぎゅうっと力を込めた。
トボトボと後を追う最中、大佐は不意に歩みを止める。
「大佐? 急にどうしたんですか?」
「こちらへ」
「へ?」
大佐は突然私の手を掴んだかと思うと、口早に言ってすぐ側の部屋へと引き込む。
埃を含んだ冷えた空気が肌を撫でて、仄暗いこの場所が使われていない空き部屋である事に気付く。
「大、さ――っ!」
今は喋るなと言わんばかりに大佐の指が唇に押し当てられた。
状況を把握しきれないまま彼の指示に従っていると、程なくして廊下から足音が聞こえ、部屋の前を通り過ぎて行く。
足音が遠ざかったのを確認して、唇に触れた指が離れた。
「手荒な真似をした事は謝ります。ですが、流石にその格好は悪目立ちしますから」
「悪目立ち……まあ、そうですね。確かに褒められた格好ではないですし」
軍人である私がメイドの格好をしていれば、それだけで話の種になる。
そうなれば、あること無いこと面白おかしく言いふらされてしまうだろう。
世間では大佐と私は正式な夫婦として認識されているのだから。
大佐は私を頭の天辺から足の爪先まで視線を滑らせ、背を向けた。
「大佐?」
「何でもありませんよ。私は外を見張っておきますので今すぐ着替えてください」
「此処でですか!?」
「ええ。見るに堪えませんので」
「んなっ!?」
いつものように嫌味を一つ残して大佐は部屋を出る。
自分でも似合わないと分かっていたが、他人に指摘されるとそれはそれで何だか腹立たしい。
先程まで悩んでいた罪悪感は、大佐の一言で跡形も無く消え失せた。
こんな物、言われずとも脱いでやる。さっさと、今すぐに。
腹を立てながら着替えをしているせいか、それが手付きにも出ているのだろう。なかなか背中のファスナーが下がらない。
何度引き下ろしてもファスナーはいう事を聞いてくれず、仕方なしに部屋の扉を小さく開けて声をかけた。
「あのぉ……」
「どうしました? まさか、もう着替え終わったのですか?」
不本意である様を前面に押し出したような面持ちで彼の問いに首を振る。
背を向けて、ぼそりと告げた。
「……ファスナー下ろしてもらえませんか?」
大佐は返事の代わりにため息をつき、再び部屋の中へ戻る。
物音一つしない室内に、ファスナーの引き下ろされる音だけが静かに響く。
「……これでよろしいですか?」
「あ、はい。ありがとう御座います」
大佐の声と共に冷えた空気が背中を撫でる。衣服の中に押し込められていた体が解放されたように軽くなった。
大佐は再び部屋の外へ出るのだとばかり思っていたのだが、一向にその様子が見られない。
背中を向けているせいで状況が把握出来ず、大佐がどういうつもりで居座っているのかも分からない。
気まずさを紛らわせるようにおずおずと声をかけた。
「か、帰ってくるの早かったんですね。明日だと思っていたのでさっきは本当に驚きました」
「早めに切り上げたんですよ。胸騒ぎがしたので」
「ははは……はは…流石ですね大佐」
「あなたの事ですから、てっきり臍を曲げているだろうと思っていたのですが――」
不自然に言葉を切ったかと思うと、コツ、と一歩踏み出す音がする。
「随分と羽を伸ばしていたようですね」
「羽?」
背後に気配を感じた直後、吐息混じりの低音が耳朶に響いた。
首筋を這い上がる手が顎に添えられて、振り向く事を良しとしない。
刹那、項にじわりと溶けるような熱を感じる。
「――っ、んぅ」
私に触れた唇は酷く一方的で、まるで躾けられているようだと思った。
「な、なななっ何をっ!?」
「あなたは、私の妻である事をきちんと自覚してください」
――さっきは“補佐官”って言ったくせに。
都合のいい時だけ“妻”呼ばわりじゃないかと心の中で毒づく。
未だに落ち着かない心音を悟られないよう、口付けられた項を手で覆い隠しながら睨め付ける。
「だ、だから偽装ですってば!」
「そうですね。ですから尚更自覚して頂きたい。良からぬ噂が立っては面倒ですから」
大佐はそれだけ言い残して今度こそ部屋を出る。
メイド服で陛下と戯れるなど言語道断というわけだ。
そこにあるのは体裁だけだというなら、どうして大佐はあんなふうに私に触れたのだろう?
「意味わかんないってば……」
ドアの閉まる乾いた音を聞きながら、震える指先で項に触れた。
未だに熱に侵されて、じくじくと痛むようだった。
20260201
まさかピオニー陛下の退屈を凌ぐために私が殺される側に回るとは微塵も思わなかった。この瞬間までは。
明日帰還予定だと聞かされたばかりだったのに、まさか今このタイミングで大佐が現れるとは想定外も甚だしい。
そして、この地獄絵図である状況を破ったのは大佐のため息だった。
「はぁ……これは一体何をしているのか聞くべきですか?」
取り乱すでもなく、ただため息をついて呆れた様子を見せるのは実に彼らしい反応だったけれど、その眼差しは言うまでもなく冷え切っていた。
燃えるような赤い瞳で、凍てつくような視線を向けられるというアンバランスさに体が縮み上がる。
それでも、彼の射竦めるような視線に臆せず言葉を返す陛下は流石としか言いようがない。
「早かったな。帰還は明日の予定だろう?」
「ええ、予定よりも早く片付きましたので。報告書をお持ち致しました」
「そうか。机に置いておけ。後で目を通しておく」
大佐は陛下の指示通り報告書を机の上に置く。
その間も私は身の振り方が分からずメイドコスチュームのまま固まっていて、目線だけを二人の会話に合わせて動かしていた。
確かに普段通りの会話であるのに、どこか空気が張り詰めているのは気のせいではない。
「……随分とお楽しみ中のようですね」
「そうだろう? だから、お前はもう下がっていいぞ。ご苦労」
「ひょえ!」
言って、陛下は背後から片腕を回し私を抱き寄せる。
今、陛下がどんな表情をしていて、何をお考えになっているかなど分からない。
ただ、向かいに立つ大佐の表情がわずかに曇り、ぴくりと眉が動いた事を思うと、きっと挑発的な顔をしているのだろう。
そんな中、陛下に片腕を回されて軽く拘束されてしまった私といえば「あ」だの「う」だの言葉にならない声を漏らして混乱の渦中にいた。
何が何やら、私は本日二度目の思考放棄真っ最中。
「陛下、ナマエを離して頂けますか? お戯れがすぎるかと」
「断る。こいつは今日一日俺の側付きにした」
「そのような格好で、ですか? そもそも側付きの話は伺っておりませんが」
「ああ。今俺が決めた」
陛下の声は心なしか弾んでいるようだ。これは楽しんでいる。
皇帝陛下という肩書を乱用して一方的な言葉を並べているけれど、大佐はそれを受け流しながらも決して承知する様子はない。
間に挟まれる私にとってはまるで地獄だ。口を挟むわけでもないのにこの場の空気に圧され息苦しくてかなわない。
「顔が怖いぞ、ジェイド。返して欲しいなら素直にそう言え」
「……そうですね。では、返して頂けますか? 彼女は私の補佐官ですから」
大佐はいつもの貼り付けた笑顔で言った。
ただ、見た目がにこやかなだけで内心とは裏腹であることを私は知っている。今までもそうだったからだ。
その証拠に私を“妻”とは呼ばない。便宜の呼称である“補佐官”と口にした時点でこれ以上の陛下の言及を拒否しているのだろう。
「つまらん理由だな」と答えた陛下の声音には呆れと落胆が混じっているようだと感じた。
ここまで陛下へと向けられていた視線が不意に私を捉える。
やましい事はない――とは言い切れないだけに、体が反射的に強張る。
「ナマエ、いつまでそうしているんです? こちらへ来なさい」
「は、はいっ!!」
『こちらへ来なさい』
その一言でいつもの大佐とは違う温度差を感じ、震え上がった私は光の速さでピオニー陛下の元から大佐の傍へと移動した。
「軍服はどこですか?」
「あ、あっちの部屋に……」
執務室から続く別室の扉を指さすと、部屋に入り手早く私の軍服を回収した大佐は陛下に一礼する。
その顔には変わらず笑が浮かんだままだ。
「では、用も済みましたので失礼致します陛下」
「し、失礼致します!」
大佐につられて私も一礼をし、後を追う。
「全く、俺の楽しみを取りやがって」
(まあ、あいつがあんな顔をしただけでも収穫はあったか……)
締まった扉を見つめながら独りごちる陛下の言葉は私達に届くことはない。満足げに緩んだ表情もまた。
***
いつかもこんなふうに、大佐の物言わぬ背中に怯えながら廊下を歩いた記憶があった。
あの時は何をしでかしたのだっけ?
――ああ、そうだ。あの時は確かガイに無断で私達の関係を話そうとして灸を据えられた。
けれどあの時と決定的に違うのは私を補佐官と称し、腕すらも引いてくれない事だろうか?
それも仕方がない。
くれぐれも面倒は起こすなと釘を刺されていたにもかかわらず、一方的とはいえ言いつけも守れずに陛下とお楽しみ中だったのだから。救いようがないのだ。
「あの、大佐……」
「言い訳は結構。早くその格好をどうにかしてください」
「……はーい」
大佐は一瞥もくれず素気無く言う。
取り付く島もないとはまさにこの事だろう。
言い訳のひとつでもさせてくれたらこの胸に居座る罪悪感も少しは薄れたかもしれないのに、それを赦してくれないのがジェイド・カーティスという男なのだ。
軍服を抱える腕にぎゅうっと力を込めた。
トボトボと後を追う最中、大佐は不意に歩みを止める。
「大佐? 急にどうしたんですか?」
「こちらへ」
「へ?」
大佐は突然私の手を掴んだかと思うと、口早に言ってすぐ側の部屋へと引き込む。
埃を含んだ冷えた空気が肌を撫でて、仄暗いこの場所が使われていない空き部屋である事に気付く。
「大、さ――っ!」
今は喋るなと言わんばかりに大佐の指が唇に押し当てられた。
状況を把握しきれないまま彼の指示に従っていると、程なくして廊下から足音が聞こえ、部屋の前を通り過ぎて行く。
足音が遠ざかったのを確認して、唇に触れた指が離れた。
「手荒な真似をした事は謝ります。ですが、流石にその格好は悪目立ちしますから」
「悪目立ち……まあ、そうですね。確かに褒められた格好ではないですし」
軍人である私がメイドの格好をしていれば、それだけで話の種になる。
そうなれば、あること無いこと面白おかしく言いふらされてしまうだろう。
世間では大佐と私は正式な夫婦として認識されているのだから。
大佐は私を頭の天辺から足の爪先まで視線を滑らせ、背を向けた。
「大佐?」
「何でもありませんよ。私は外を見張っておきますので今すぐ着替えてください」
「此処でですか!?」
「ええ。見るに堪えませんので」
「んなっ!?」
いつものように嫌味を一つ残して大佐は部屋を出る。
自分でも似合わないと分かっていたが、他人に指摘されるとそれはそれで何だか腹立たしい。
先程まで悩んでいた罪悪感は、大佐の一言で跡形も無く消え失せた。
こんな物、言われずとも脱いでやる。さっさと、今すぐに。
腹を立てながら着替えをしているせいか、それが手付きにも出ているのだろう。なかなか背中のファスナーが下がらない。
何度引き下ろしてもファスナーはいう事を聞いてくれず、仕方なしに部屋の扉を小さく開けて声をかけた。
「あのぉ……」
「どうしました? まさか、もう着替え終わったのですか?」
不本意である様を前面に押し出したような面持ちで彼の問いに首を振る。
背を向けて、ぼそりと告げた。
「……ファスナー下ろしてもらえませんか?」
大佐は返事の代わりにため息をつき、再び部屋の中へ戻る。
物音一つしない室内に、ファスナーの引き下ろされる音だけが静かに響く。
「……これでよろしいですか?」
「あ、はい。ありがとう御座います」
大佐の声と共に冷えた空気が背中を撫でる。衣服の中に押し込められていた体が解放されたように軽くなった。
大佐は再び部屋の外へ出るのだとばかり思っていたのだが、一向にその様子が見られない。
背中を向けているせいで状況が把握出来ず、大佐がどういうつもりで居座っているのかも分からない。
気まずさを紛らわせるようにおずおずと声をかけた。
「か、帰ってくるの早かったんですね。明日だと思っていたのでさっきは本当に驚きました」
「早めに切り上げたんですよ。胸騒ぎがしたので」
「ははは……はは…流石ですね大佐」
「あなたの事ですから、てっきり臍を曲げているだろうと思っていたのですが――」
不自然に言葉を切ったかと思うと、コツ、と一歩踏み出す音がする。
「随分と羽を伸ばしていたようですね」
「羽?」
背後に気配を感じた直後、吐息混じりの低音が耳朶に響いた。
首筋を這い上がる手が顎に添えられて、振り向く事を良しとしない。
刹那、項にじわりと溶けるような熱を感じる。
「――っ、んぅ」
私に触れた唇は酷く一方的で、まるで躾けられているようだと思った。
「な、なななっ何をっ!?」
「あなたは、私の妻である事をきちんと自覚してください」
――さっきは“補佐官”って言ったくせに。
都合のいい時だけ“妻”呼ばわりじゃないかと心の中で毒づく。
未だに落ち着かない心音を悟られないよう、口付けられた項を手で覆い隠しながら睨め付ける。
「だ、だから偽装ですってば!」
「そうですね。ですから尚更自覚して頂きたい。良からぬ噂が立っては面倒ですから」
大佐はそれだけ言い残して今度こそ部屋を出る。
メイド服で陛下と戯れるなど言語道断というわけだ。
そこにあるのは体裁だけだというなら、どうして大佐はあんなふうに私に触れたのだろう?
「意味わかんないってば……」
ドアの閉まる乾いた音を聞きながら、震える指先で項に触れた。
未だに熱に侵されて、じくじくと痛むようだった。
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