07
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「それで、最近はどうだ? 夫婦ごっことやらは。ジェイドの奴とは仲良くやってるのか?」
「……陛下、あえてお聞きになるのですか? その話を」
ピオニー陛下は、自身の膝に乗せたブウサギを撫でながら対面に座る私に問いかけた。
“ごっこ”だなんてとんでもない。
そんなお遊びで済まされる可愛らしいものであったならどれ程良かっただろう……。
ピオニー陛下の私室には、実に六匹のブウサギが放されており、それぞれが伸び伸びと過ごしている。
こうして部屋に通され言葉を交わしているが、勿論、歓談する為に此処を訪れたわけではない。
そんな恐れ多い事が出来るはずもなく、陛下に呼び付けられたからにすぎない。
正式には陛下から大佐を通して指示が入った。私は彼の偽りの妻であり、彼の補佐官であるから。
ここずっと何日も執務室に縛り付けられ書類整理ばかりで発狂寸前だった事もあり、陛下の呼び出しは大変有り難い。
まあ、陛下の呼び出しでなくとも、私をあの息の詰まりそうな執務室から連れ出してくれるのなら何でもよかったのだけれど……。
お待ちかねの任務(肉体労働)ですよと大佐からの指示を受け、こうしてピオニー陛下の私室を訪ねたと言う経緯だった。
ブウサギとはこうも人懐こい生き物なのだろうか?
陛下に懐くのは分かるが、初対面の私にも心を開き膝によじ登ってくる。
そのまま私の膝を陣取った一匹のブウサギを撫でながら溜め息を吐いた。
「改めて口にするまでもなく、最悪ですよ。最悪」
「ほう?」
「マルクトに連れ帰られ偽装結婚してからというもの、周囲からは好奇の目で見られ、かと思えば憐憫の眼差しで見てくる者もいれば、羨ましいと僻まれる事もある。一部の兵士からは補佐官のポストを与えられた事が気に食わないと贔屓だのなんだのと妬まれる始末です。お陰で色んな意味で距離を取られて孤立状態ですよ。後は……」
「後は?」
ここ最近の不平不満を一息で話す私に、ピオニー陛下は興味深いと言いたげに身を乗り出して、話の続きを催促する。
他人の苦労話がそんなに楽しいのだろうか?
それとも、私と大佐の事だから興味を示しているだけか……。
どちらにしろ、ここまで話してしまったのだから全てを包み隠さず打ち明けるしかない。
こんな状態であるから、日頃から話をする友もいない。友と言わずとも、この不平不満に耳を傾けてくれる相手が欲しかった。
「目が覚めると…………毎回大佐に抱きしめられていて心臓に悪いです。心臓が止まりそうです……うぅ」
「あっはっはっは!」
陛下は快活に笑うが、決して笑い事ではない。笑い事では済まされない。
私を女として見ていないと発言したくせに、毎日大佐の腕の中で朝を迎えている。
これは一体どういう事かと問い質しても、「不可抗力ですよ」と飄々とした態度であしらわれるばかりだ。
「誰のせいだとお思いですか?」
「なんだ、俺のせいだとでも言いたいのか?」
口角を上げて問う陛下は、当人の私達よりもこの関係を楽しんでいるようだった。
補佐官任命といい、愛の巣といい、ベッドといい……。彼のやる事なす事ことごとく故意なのではないかと思えてならない。
ピオニー・ウパラ・マルクト九世皇帝陛下、余計な世話を焼いてくださり恐悦至極に御座います。
「どなたか存じませんが、寝所にキングサイズのベッドをご用意して頂いたお陰です」
「それは良いな。ひと役買ったようだ」
「買ってませんよ……最悪ですよ……」
「いいじゃないか。夫婦らしくて」
「夫婦じゃないです。ぎ・そ・う夫婦です」
「似たようなものだろう?」
「なあ? ネフリー」と陛下は、膝に乗るブウサギを撫でながら話しかける。
この一等毛並みの良いブウサギはネフリーという名前らしい。
他にもサフィール、ゲルダ、アスラン、ルーク……この部屋には六匹のブウサギが放されているが、では、私の膝に乗るこの子の名前はなんというのだろう?
「ところで陛下、私の任務とは何でしょう? 大佐から今日は陛下の下で特別任務に着けと指示がありましたが……」
「任務なら今着いているだろう?」
「え?」
まさか、陛下とのお喋りが特別任務だとは言わないだろう。
しかし、実際はそれに近しい任務だったようだ。
「ナマエ、お前にはこいつらの世話係を命じる」
「えええええ!?」
こいつらのとは、私の周りでブヒブヒと鼻を鳴らし、ころんとした愛くるしいフォルムで歩き回っているこの子達のことだろうか?
確かに大佐の言葉通り肉体労働ではありそうだが、これが特別任務だと言われれば肩透かしを食った気分だった。
もっとこう、魔物退治だとか悪党を捕縛するだとか、血湧き肉躍るような任務を期待していた事もあって、正直物足りないと思えてならない。
「いつも世話を任せているガイラルディアが所用でな」
「ガイラルディア……とは、誰です?」
“ガイラルディア”
聞かない名前だ。私がマルクトを離れた二年の間で新しく入った使用人だろうか?
少なくとも私が身を置いた二年前には耳にした事はない。
「そう言えばお前はガイラルディアと顔を合わせた事がなかったな。またの機会に紹介しよう」
「はあ、」
さも興味なさげな反応を示すと、陛下はつまらないと言いたげに不服そうな表情で口を尖らせた。
「何だそのつまらん反応は。いいかナマエ、ガイラルディアは色男だぞ? しかもマルクトの貴族で好青年だ」
「貴族……! 好青年……! ぜ、是非紹介してくださいっ!」
忘れてもらっては困るが、大佐と偽装結婚をしているからと言って、私自身、結婚を諦めているわけではない。
今は致し方なくこの関係に身を置いているが、いずれこの関係に終止符を打つ時が来れば本当の幸せを探したいと思っている。
…………いや、待って。ちょっと待って。そもそも終わりなんてあるの?この関係に。
今更ながらに、最重要項目についての詰めの甘さが露呈した。
大佐にこの関係を提案された時、そこには何も言及が無かったことを思い出してとてつもない不安に襲われる。
一抹の不安ではない。多大なる不安だ。
今一度、確認しておく必要がありそうだと心に留め置いた。
「ははっ! そうこなくちゃ面白くない」
「面白くない?」
「いや何、こっちの話だ。気にするな」
陛下はまたしても何やら企んでいるようだった。
きっとろくな事ではない。私がグランコクマに戻り、陛下と謁見した時と同様の胸騒ぎがする。
私の膝を占領しているブウサギが鼻を鳴らしながら、何か強請るようにペロペロと口元を舐めてくる。
「あははっ、ちょ、擽ったいってば! ええっと……陛下、この人懐こい可愛らしい子はなんという名前ですか?」
「ジェイドだ」
「はい?」
「そいつの名はジェイドという」
「…………チェンジで」
「何を言う。こんなに可愛いだろう? コイツに罪はないぞ」
確かにブウサギに罪はない。ただ、名前が罪だった。
「アイツもそれだけ素直になれていればな。今と何か変わっていたんだろうが……」
「……」
憂の色を帯びた表情で窓の外へ視線を向ける陛下は一体何の話をしているのだろう?
何の話をし、何に憂いているのだろうか?
アイツとはブウサギと同じ名前の大佐のことを指しているのだと分かる。
それ以外の事はてんで分からなかった。私が知る必要はないような気がして、敢えて聞き返す事はしなかった。
「少し喋りすぎたな。俺は執務に戻るとしよう。そういうわけで、今日一日こいつらの世話を任せる。そろそろ散歩の時間だからな。中庭に連れ出してやってくれ」
「はい、承知いたしました」
ブウサギの世話係が私の今日の任務らしい。期待外れだったが、それでも執務室で書類整理をするよりもずっといい。何倍もマシだ。
正式に陛下から言い渡され、しおらしく頷いて任を拝命した。
20251102
「……陛下、あえてお聞きになるのですか? その話を」
ピオニー陛下は、自身の膝に乗せたブウサギを撫でながら対面に座る私に問いかけた。
“ごっこ”だなんてとんでもない。
そんなお遊びで済まされる可愛らしいものであったならどれ程良かっただろう……。
ピオニー陛下の私室には、実に六匹のブウサギが放されており、それぞれが伸び伸びと過ごしている。
こうして部屋に通され言葉を交わしているが、勿論、歓談する為に此処を訪れたわけではない。
そんな恐れ多い事が出来るはずもなく、陛下に呼び付けられたからにすぎない。
正式には陛下から大佐を通して指示が入った。私は彼の偽りの妻であり、彼の補佐官であるから。
ここずっと何日も執務室に縛り付けられ書類整理ばかりで発狂寸前だった事もあり、陛下の呼び出しは大変有り難い。
まあ、陛下の呼び出しでなくとも、私をあの息の詰まりそうな執務室から連れ出してくれるのなら何でもよかったのだけれど……。
お待ちかねの任務(肉体労働)ですよと大佐からの指示を受け、こうしてピオニー陛下の私室を訪ねたと言う経緯だった。
ブウサギとはこうも人懐こい生き物なのだろうか?
陛下に懐くのは分かるが、初対面の私にも心を開き膝によじ登ってくる。
そのまま私の膝を陣取った一匹のブウサギを撫でながら溜め息を吐いた。
「改めて口にするまでもなく、最悪ですよ。最悪」
「ほう?」
「マルクトに連れ帰られ偽装結婚してからというもの、周囲からは好奇の目で見られ、かと思えば憐憫の眼差しで見てくる者もいれば、羨ましいと僻まれる事もある。一部の兵士からは補佐官のポストを与えられた事が気に食わないと贔屓だのなんだのと妬まれる始末です。お陰で色んな意味で距離を取られて孤立状態ですよ。後は……」
「後は?」
ここ最近の不平不満を一息で話す私に、ピオニー陛下は興味深いと言いたげに身を乗り出して、話の続きを催促する。
他人の苦労話がそんなに楽しいのだろうか?
それとも、私と大佐の事だから興味を示しているだけか……。
どちらにしろ、ここまで話してしまったのだから全てを包み隠さず打ち明けるしかない。
こんな状態であるから、日頃から話をする友もいない。友と言わずとも、この不平不満に耳を傾けてくれる相手が欲しかった。
「目が覚めると…………毎回大佐に抱きしめられていて心臓に悪いです。心臓が止まりそうです……うぅ」
「あっはっはっは!」
陛下は快活に笑うが、決して笑い事ではない。笑い事では済まされない。
私を女として見ていないと発言したくせに、毎日大佐の腕の中で朝を迎えている。
これは一体どういう事かと問い質しても、「不可抗力ですよ」と飄々とした態度であしらわれるばかりだ。
「誰のせいだとお思いですか?」
「なんだ、俺のせいだとでも言いたいのか?」
口角を上げて問う陛下は、当人の私達よりもこの関係を楽しんでいるようだった。
補佐官任命といい、愛の巣といい、ベッドといい……。彼のやる事なす事ことごとく故意なのではないかと思えてならない。
ピオニー・ウパラ・マルクト九世皇帝陛下、余計な世話を焼いてくださり恐悦至極に御座います。
「どなたか存じませんが、寝所にキングサイズのベッドをご用意して頂いたお陰です」
「それは良いな。ひと役買ったようだ」
「買ってませんよ……最悪ですよ……」
「いいじゃないか。夫婦らしくて」
「夫婦じゃないです。ぎ・そ・う夫婦です」
「似たようなものだろう?」
「なあ? ネフリー」と陛下は、膝に乗るブウサギを撫でながら話しかける。
この一等毛並みの良いブウサギはネフリーという名前らしい。
他にもサフィール、ゲルダ、アスラン、ルーク……この部屋には六匹のブウサギが放されているが、では、私の膝に乗るこの子の名前はなんというのだろう?
「ところで陛下、私の任務とは何でしょう? 大佐から今日は陛下の下で特別任務に着けと指示がありましたが……」
「任務なら今着いているだろう?」
「え?」
まさか、陛下とのお喋りが特別任務だとは言わないだろう。
しかし、実際はそれに近しい任務だったようだ。
「ナマエ、お前にはこいつらの世話係を命じる」
「えええええ!?」
こいつらのとは、私の周りでブヒブヒと鼻を鳴らし、ころんとした愛くるしいフォルムで歩き回っているこの子達のことだろうか?
確かに大佐の言葉通り肉体労働ではありそうだが、これが特別任務だと言われれば肩透かしを食った気分だった。
もっとこう、魔物退治だとか悪党を捕縛するだとか、血湧き肉躍るような任務を期待していた事もあって、正直物足りないと思えてならない。
「いつも世話を任せているガイラルディアが所用でな」
「ガイラルディア……とは、誰です?」
“ガイラルディア”
聞かない名前だ。私がマルクトを離れた二年の間で新しく入った使用人だろうか?
少なくとも私が身を置いた二年前には耳にした事はない。
「そう言えばお前はガイラルディアと顔を合わせた事がなかったな。またの機会に紹介しよう」
「はあ、」
さも興味なさげな反応を示すと、陛下はつまらないと言いたげに不服そうな表情で口を尖らせた。
「何だそのつまらん反応は。いいかナマエ、ガイラルディアは色男だぞ? しかもマルクトの貴族で好青年だ」
「貴族……! 好青年……! ぜ、是非紹介してくださいっ!」
忘れてもらっては困るが、大佐と偽装結婚をしているからと言って、私自身、結婚を諦めているわけではない。
今は致し方なくこの関係に身を置いているが、いずれこの関係に終止符を打つ時が来れば本当の幸せを探したいと思っている。
…………いや、待って。ちょっと待って。そもそも終わりなんてあるの?この関係に。
今更ながらに、最重要項目についての詰めの甘さが露呈した。
大佐にこの関係を提案された時、そこには何も言及が無かったことを思い出してとてつもない不安に襲われる。
一抹の不安ではない。多大なる不安だ。
今一度、確認しておく必要がありそうだと心に留め置いた。
「ははっ! そうこなくちゃ面白くない」
「面白くない?」
「いや何、こっちの話だ。気にするな」
陛下はまたしても何やら企んでいるようだった。
きっとろくな事ではない。私がグランコクマに戻り、陛下と謁見した時と同様の胸騒ぎがする。
私の膝を占領しているブウサギが鼻を鳴らしながら、何か強請るようにペロペロと口元を舐めてくる。
「あははっ、ちょ、擽ったいってば! ええっと……陛下、この人懐こい可愛らしい子はなんという名前ですか?」
「ジェイドだ」
「はい?」
「そいつの名はジェイドという」
「…………チェンジで」
「何を言う。こんなに可愛いだろう? コイツに罪はないぞ」
確かにブウサギに罪はない。ただ、名前が罪だった。
「アイツもそれだけ素直になれていればな。今と何か変わっていたんだろうが……」
「……」
憂の色を帯びた表情で窓の外へ視線を向ける陛下は一体何の話をしているのだろう?
何の話をし、何に憂いているのだろうか?
アイツとはブウサギと同じ名前の大佐のことを指しているのだと分かる。
それ以外の事はてんで分からなかった。私が知る必要はないような気がして、敢えて聞き返す事はしなかった。
「少し喋りすぎたな。俺は執務に戻るとしよう。そういうわけで、今日一日こいつらの世話を任せる。そろそろ散歩の時間だからな。中庭に連れ出してやってくれ」
「はい、承知いたしました」
ブウサギの世話係が私の今日の任務らしい。期待外れだったが、それでも執務室で書類整理をするよりもずっといい。何倍もマシだ。
正式に陛下から言い渡され、しおらしく頷いて任を拝命した。
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