テニスの王子様
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青空が広がる午後。
青春学園のテニスコートでは、いつものようにボールの弾む音が響いていた。
「越前!足が止まってるぞ!」
「まだまだだぞ越前!」
手塚の低い声と、大石の穏やかな声が交互に響く。
その少し離れた場所――
女子テニス部のコート。
ラケットを肩に担いだ少女が、静かに試合を見ていた。
中峰 瑠々。
青春学園女子テニス部部長。
長い黒髪を一つにまとめ、
凛とした雰囲気をまとった彼女は、校内でも有名だった。
「部長、次どうします?」
後輩が声をかける。
「…もう一本。フットワークが甘い」
淡々とした声。
けれどその言葉には、ちゃんと相手を思う優しさがある。
「はいっ!」
後輩たちは元気に返事をした。
瑠々は静かに頷くと、男子コートの方をちらりと見た。
その視線の先では――
「手塚、少し休んだ方がいいんじゃないか?」
「大石…問題ない」
「いやでもさ、肩も――」
「問題ない」
「いや絶対あるだろう!?」
「ない」
二人のやり取りを見ていた瑠々は――
ふっ。
ほんの一瞬だけ、口元を緩めた。
それはほんの小さな笑み。
けれど、光をまとったみたいに綺麗だった。
そして――
その笑顔を、見てしまった人物がいた。
「……っ」
大石秀一郎だった。
(今…笑った…?)
胸がドクンと鳴る。
瑠々は普段、あまり笑わない。
クールで落ち着いていて、感情を表に出さない。
でも――
(今の笑顔…)
頭から離れなかった。
休憩時間。
男子テニス部のベンチで、大石はぼんやりしていた。
「どったの、大石?」
菊丸が顔を覗き込む。
「え?あ、いや…」
「なんか今日変じゃない?」
「そ、そんなことないよ」
菊丸はニヤッと笑う。
「もしかしてさー」
「な、なに?」
「女子テニス部の部長見てた?」
「!?」
大石は思いっきりむせた。
「な、なんでそれを!?」
「だって大石、さっきからチラチラ見てるもん」
「ち、違うよ!」
「へぇ〜」
菊丸はニヤニヤしている。
「部長、綺麗だよね〜」
「……」
大石は言葉を詰まらせた。
綺麗。
その一言で済ませていいのか分からないくらい。
「(あの笑顔…)」
思い出しただけで胸が熱くなる。
数日後。
部活後のコート。
夕焼けが広がる校庭で、男子部長・副部長・女子部長の三人が集まっていた。
「合同練習の件だが」
手塚が資料を見ながら言う。
「来週の日曜でいいか?」
瑠々は頷いた。
「問題ないよ」
大石が補足する。
「女子の方も人数大丈夫?」
「ええ。調整済み」
相変わらず落ち着いた声。
大石は少しだけ緊張していた。
「(近い…)」
こんなに近くで話すことは、意外と少ない。
その時――
「大石」
「え?」
「聞いているか?」
「ご、ごめん!」
手塚が呆れたように息をつく。
「しっかりしろ」
その様子を見て。
ふっ。
また、瑠々が小さく笑った。
「……!」
大石の心臓が跳ねた。
「(まただ…)」
夕焼けの光の中で、彼女の笑顔が柔らかく見える。
その瞬間。
大石は、はっきり理解してしまった。
「(俺…この人が好きなんだ)」
それから数週間。
大石の気持ちは、どんどん大きくなっていった。
練習の合間に見かけるたび。
会議で隣に座るたび。
胸がドキドキする。
でも――
「(気づかれてないよな…)」
瑠々はいつも通りだった。変わらない。相変わらずクールで。
でも――
時々。ほんの少しだけ。笑う。そのたびに、大石は心を奪われていた。
ある日の放課後。部活が終わった後の校庭。瑠々が一人でコート整備をしていた。
そこへ――
「中峰さん」
振り向く。
「大石くん」
少し驚いた顔。
「まだ残ってたんだ」
「うん…ちょっと話があって」
心臓がうるさい。
「(今しかない)」
大石は深呼吸した。
「中峰さん」
「?」
「俺…ずっと前から」
声が震える。
「君のことが好きなんだ」
静かな沈黙。
風が吹く。
瑠々は驚いた顔で、大石を見ていた。
「……私?」
「うん」
「どうして」
大石は少し笑った。
「最初は…笑顔だった」
「笑顔?」
「うん。手塚と俺のやり取り見て、ふっと笑った時」
瑠々の目が少し大きくなる。
「あれ見た瞬間…胸がドキッとして」
「……」
「それから気づいたら、君ばっかり見てた」
恥ずかしい。
でも、止められない。
「クールで、強くて…でも時々すごく優しくてそんな君が好きなんだ」
夕焼けの光が、二人を包む。
瑠々は少し俯いた。
そして――
小さく笑った。
「……気づいてなかった」
「え?」
「そんなふうに思われてるなんて」
少し間を置いて。
彼女は続けた。
「でも」
ゆっくり大石を見る。
その瞳は、いつもより柔らかかった。
「私も」
「?」
「あなたのこと、気になってた」
大石の心臓が止まりそうになる。
「本当?」
「ええ。いつも優しくて…みんなを支えていて……素敵な副部長だと思ってた」
大石は思わず笑ってしまった。
「副部長としてじゃなくて…?」
瑠々は少しだけ照れた。
そして――
「……男の人として」
その言葉のあと。沈黙が落ちた。次の瞬間。大石はそっと瑠々の手を取った。
「触れても…いい?」
瑠々は静かに頷いた。大石はゆっくり顔を近づける。
そして――
優しく唇を重ねた。ほんの短いキス。でも温かい。離れたあと。大石は照れながら笑った。
「これからよろしくね」
瑠々は少しだけ微笑む。
その笑顔は――
今までで一番綺麗だった。
「ええ。よろしく、大石くん」
夕焼けのコートに。
二人の影が、静かに並んでいた。
~END~
