テニスの王子様
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
スタンドに響くフルートの音は、去年と同じはずなのに――
忍足の胸には、去年よりずっと深く刺さっていた。
(あんな音…反則やろ)
明るくて、元気で、誰とでもすぐ仲良くなる。
それなのに、フルートを構えた瞬間だけ、別人みたいに静かで綺麗で。
忍足は一年前から、ずっとその姿を目で追っていた。
――そして今日。
「なぁ聞いた?氷帝の吹奏楽の子、めっちゃ可愛ない?」
「フルートの子やろ?他校でも噂なってるで」
青学、立海、四天宝寺…
視線が彼女に集まっているのを、忍足はすぐに察した。
(……あかん)
理由は分からない。
でも胸の奥が、ざわついて仕方なかった。
試合は、青学の勝利。
氷帝は敗れ、コートを去る。
その帰り道――
整列した吹奏楽部の中に、瑠々がいた。
必死に笑顔を作ろうとしているのに、
目元は真っ赤で、今にも涙がこぼれそうで。
(……泣いてる)
気づいた瞬間、忍足の足は勝手に動いていた。
「[#dn=1#]」
そっと、彼女の手首を取る。
驚いた瑠々が顔を上げる前に、人の少ない通路へ連れ出した。
「お、忍足先輩…?」
そこで――
瑠々の涙が、ぽろっと落ちた。
「……負けちゃって……悔しくて……
でも、応援、ちゃんと届いたかなって……」
言葉の途中で、声が震える。
忍足は何も言わず、
ただ、そっと彼女を抱き寄せた。
「……届いてたで」
肩に顔を埋める瑠々の背中に、腕を回す。
「一年も前からや。
君のフルート、俺の中に残りっぱなしや」
「……え?」
「君が思ってるより、ずっと前からや」
瑠々の身体が、ぴくりと揺れた。
「俺な、
他の奴らが君を“可愛い”言うてんの聞いて……
正直、焦った」
少し照れたように、でも真剣な声で。
「……取られたくない、思ってもうた」
瑠々がゆっくり顔を上げる。
涙で濡れた瞳が、忍足を映した。
「……私も」
小さな声。
「一年前の応援の時、忍足先輩見て……
それからずっと、陰から……」
その瞬間――
忍足は迷わなかった。
瑠々の頬に手を添え、
親指で涙を拭ってから――
「……もう陰やないで」
そっと、唇を重ねる。
触れるだけの、やさしいキス。
でも確かに、想いが伝わるキス。
一瞬離れて、忍足は額を軽く合わせた。
「これからは、俺のそばで笑いて」
瑠々は、泣きながら笑った。
「……うん」
スタンドからは、まだざわめきが聞こえる。
でもこの場所だけ、世界が静かだった。
フルートの音色と、テニスボールの弾む音。
二つが重なった場所で――
恋は、ちゃんと始まった。
~END~
