春告鳥は鳴かず飛ばず

 『ラベンダーベッド』を行くサンクレッドの足取りは軽やかである。靴音のリズムは早いが、気忙しい様子ではない。この先に待ちきれない用事があって、思わず歩を急いてしまうような、そんな弾んだ気配だった。唇は穏やかに弧を描いている。オールドローズの花束と、タルトが入った箱と、古新聞に包んだ酒瓶をその手に持つとなれば、彼が坂道さえ跳ぶように進む理由なんて知れたものだった。
 森都グリダニアからそう遠くない位置に設けられた、冒険者のための居住区『ラベンダーベッド』。清水を湛えた湖は、西に傾く夕陽の黄金に煌めいて、そこで水鳥が魚を探して波紋を立てている。黒衣森がもたらす豊かな新緑には、赤や黄や紫と、花の色が一面に浮かび上がって、たいそう賑やかな装いであった。

 季節は、春だ。愛と恋との問答にけりをつけ、銀の指輪も肌に馴染んできた頃である。サンクレッドが妻と────光の戦士であり救世の英雄である女傑と、夫婦として共に暮らすようになってから、初めての春がやってきていた。

 暮らす、といっても、彼が愛の巣に留まっている時間はそう長くない。まるで冒険者みたいに各地をさすらいながら、世界で起こっている事々を、その在り方を見つめ、時に厄介と困難を解決してまわっているからだ。
 テレポをはじめとする魔法を扱えなくなったサンクレッドが、その身で旅をしようとすると当然、徒歩やチョコボや飛空艇での移動が主になる。ひどく時間をかけながら、それでもサンクレッドがゆくのは、恩師と妹から受け継いだ救済への意思を、何より大切にしているからだった。
 愛する人たちが愛した世界。彼もまた、青き生命の星アーテリスを愛せている。
 ミンフィリアをいちばん尊い希望と仰ぐ思いと、その意思を継ぐ娘リーンをいちばんに守りたいと願う思いが、今のサンクレッドの心核だ。それを光の戦士たる女が善しと笑ってくれるから、彼は彼のまま、何もかもを抱きしめる。彼がいつか捧げた祈りと、いつか立てた誓いは、彼女の望みと同じ場所へ辿り着く。そうして、つがいの守護者で在ることに、答えを得たのだった。
 短い婚約期間を経て英雄の伴侶となったサンクレッドは、長期的に流浪する以外は、まったく善き恋人であり善き夫であった。そばにある時には彼女の小さな体を抱いて温め、唇に触れるものを吟味し、その髪がつやつやと艶やかなことを喜んだ。旅の途中では必ずリンクパールで近況を語り合い、店先でふと香る花に妻の面影を見たと囁いては笑わせる。そうして、帰路につく足は浮かれ気味で、記念や祝事があるわけでもないくせ、贈り物を腕から溢れさせるのだ。
 妻の喜ぶ顔が見たいがための献身であるが、今回だけは、ほんの少しの下心がある。サンクレッドは、酒が瓶の中でとぷんと波打つ音を聞いていた。
 若草の瑞々しく茂る道を過ぎて、いよいよ、アパルトメントまで続く長い橋に踏み入る。ブーツの底がごつごつと、歌うように鳴ることに気付いたのはその時で、サンクレッドは無意識に早めていた歩調を思ってはにかんだ。

 銀の髪と白いコートを東風になびかせて、彼が帰ってくる。

 ふと脳天に視線が刺さった気がして、サンクレッドはアパルトメント『リリーヒルズ』に並ぶ窓をずらりと見上げた。ガラスの向こう側で生活をする人々に混じって、懐っこい気配は一瞬のうちに感じ取れなくなる。臆病で好奇心旺盛な生き物が物陰からこちらを窺っている、その様にも似ていて、サンクレッドは思わず肩を揺らした。覚えがあって、愛しくなるから、つい笑みがヘーゼル・アイの眦に浮かんだ。
 至って勘の悪い男の振りで素知らぬ顔を作り、『リリーヒルズ』の玄関ロビーへと足を踏み入れる。樹木の香りだ。木造建築の独特な、清廉さと豊満さが、サンクレッドの鼻先を撫でていく。妻との優しい生活を思い起こすから、この香りが好きだ。海の匂いや砂埃と同じくらいに、親しみを持てるようになっていた。
 階層間転送魔法陣を使うまでもない高さに住まいがあるものだから、軽い足取りで階段を上がる。他の都市のアパルトメントには、魔導エレベーターなるものが組み込まれているところもあるそうだ。サンクレッドは便利で良いと思うのだが、この地に住まう精霊からすると、散々黒衣森を荒らした帝国の兵装とガーロンド社の技術との区別がつかないらしい。たいそう彼らが顰蹙するため、『リリーヒルズ』には導入できないのだと、光の戦士が笑って話していたのを思い出した。彼女は白魔法さえ修めた癒し手であり、だから三重の幻術皇とも接点があって、そんな話をついでに聞くのだそうだ。グリダニアのトップと雑談をする仲とは、我が妻ながら恐れ入る。
 抱えたプレゼントたちを抱え直し、サンクレッドは慣れた足取りで進んでいく。入り組んだ構内は迷路のようだが、この複雑さこそが、英雄たる妻の生活を守る要であった。
 冒険者ばかりが住み着くアパルトメントは、さながら毒蜂の巣だ。つつけば何が起きるかなんて分かりきっている。不届き者が手当たり次第に攻めようものなら、あっという間に武装した住人に囲まれて、双蛇党に突き出されるだろう。“英雄を狙うような外敵”を排除しやすい構造、その一部に秘匿の神秘────ウリエンジェが『砂の家』に仕掛けたものと同等の、縁ある者のみを招き入れる結界を張り巡らせれば、ちゃちな要塞よりも安全な住みかの完成だ。それが、ふたりのアパルトメント暮らしの理由であった。

「っ、と」

 足を止めた、とある部屋の前。荷物を抱えすぎて、しまい込んだ鍵に手が届かないことに気付いたサンクレッドは、そっとドアに額を寄せる。わざわざ感じようとしなくたって、すぐそこに可愛い気配があるのが分かるから、抑えきれずにくつくつと喉を鳴らした。

「開けてくれないか、マイ・シュガー」

 いつか演じていた色男みたいに、優しく聞こえるように呼びかける。応えてくれる微かな笑い声が聴覚に触れて、しみじみと愛しさを噛みしめた。
 ドアが開く。うっすらと。ぴかぴかと輝く彼女の瞳が楽しそうにこちらを見ているから、隙間ごしに覗き返した。

「合言葉は?」

 彼女が言った。初耳である。

「合言葉?」
「合言葉」

 また妙な遊びを始めたな、とサンクレッドは思った。救世の英雄、だなんて仰々しい呼び名がついているものの、彼と過ごす時の妻は無邪気そのもので、どこで覚えてきたのだか、いつ思い付いたのだか分からないことを、突拍子もなくやり出すのだ。それが彼にとっては実に新鮮で、刺激的であった。
 サンクレッドは、はて、と小首を傾げて微笑む。彼女のことが可愛いから、付き合ってやるのだって吝かではなかった。

「のばら」
「それは『暁の血盟』のでしょ」
「それじゃ……うろこ」
「はずれ」
「なら……、……しっぽ」
「ふふふ」

 言葉を交わすごとに、ドアが少しずつ開いていく。彼女に意図があるわけではない、サンクレッドと話すうちに、夫の顔を明瞭に見つめたくなって視界を広げただけの無意識である。
 すっかり顔を出した妻に鼻先を寄せて、サンクレッドは、鮮やかに赤い薔薇の花束を差し出した。

「ただいま」

 彼女の頬を、ぱっと喜色が彩った。

「おかえりなさい!」

 ドアが大きく開け放たれた。飛びつきそうな勢いの彼女は、喜んで花束を受け取ると、アウラ族特有の角でそっとサンクレッドの胸に触れる。その優しい仕草に引き寄せられるようにして、自然と寄り添い、彼は頭を垂れて唇を重ねた。
 彼女の角は、不意に近付く不埒な輩を威嚇するみたいに伸びている。だから口付けるためには彼女に許されていなければならなくて、このまどろっこしい探り合いがいつまでも好ましかった。口許から頬にかけての皮膚に当たる、まあるく整えられた角先に、サンクレッドは淡い快感さえ覚えていた。
 たっぷりとキスをして、名残惜しく吐息を交ぜる。

「……律儀よね、あんた。いつもいっぱい持って帰ってきてさ」
「つい目移りするんだ。今の時期はお前が好きなものばかりだから」

 彼の腕に抱えられているお土産たちをまじまじ眺めて、光の戦士たる女は、また夫の顔を見上げる。サンクレッドの瞳は、射し込む光で僅かずつ色を変えるヘーゼル・アイで、今は蜜を湛えた黄金に見えた。彼の綻ぶ唇が、彼女の額の鱗を撫でていく。

「カーラインカフェのスナーブルベリータルト」
「好き!」
「はは。ミューヌさんが、お前によろしくと言ってたよ」

 薔薇の香りを堪能しながら上機嫌に先行く妻、そのあとを追って、サンクレッドは二人暮らしの室内に入った。ぱちん、と鍵の閉まる音が、手のひらに跳ね返る。
 もともとは、英雄である彼女が、個人的に借り受けていたセーフハウス────公にしないことで安全を図る、秘密基地みたいな住まいであった。そこを改めて契約し直し、リフォームを重ねて、夫婦で快適に暮らせる部屋に変えたのだ。彼女たっての希望で、仲間や友人を呼んでも狭くないよう内装も弄ってある。サンクレッドと彼女だけの内緒の部屋ではなくなったが、訪れる誰かを思うダイニングルームは、これで心地の良いものだった。
 テーブルにタルトの箱と古新聞の包みを置いたサンクレッドは、身に付けていたソイルホルダーとポーチを外していく。腕の防具を、サポーターを取り払う。それからやっとコートを脱げば、活けた花をテーブルに飾った彼女がいそいそとやってきて手を出すので、今取り払ったものたち一式を乗せた。

「良いんだぞ、ほっといてくれて」
「いいの、私がしたいの」

 英雄なんて呼ばれる女傑は、白い頬にほんのりと血色を滲ませ、いかにも慎ましげな仕草でサンクレッドのものを持ち運んだ。彼のためのコートハンガーにひとつずつを丁寧に吊るし、真っ白な生地を撫で付けて、満足げに頷く。
 腕っぷしも強ければ負けん気も強い彼女だ。神に連なる獣のごとき、強大な力を持つ女傑である。他人の、ましてやそこいらの男の命令なんて、そうですかと聞き入れてくれるような生き物ではない。それでも、夫と定めた人間の世話をすることには、どうも楽しみを見出だしているようだった。従順な良妻の真似事をして喜ぶみたいな、無垢の気配があるから、サンクレッドは彼女の献身に甘んじていた。
 脚部のガードを外したサンクレッドが、ブーツから足を引き抜いたところで、妻が顔を覗き込んでくる。

「先にお風呂してきちゃう?」
「あー……」

 添えられた室内用のスリッパに踵を乗せて、サンクレッドは自身の腕に鼻先をあてた。すん、と息を吸う。ひどい臭いはしていない、と思うが、何せ旅のあとだ。埃と汗は嫌でも纏う。
 せっせとブーツを靴箱にしまいにいった彼女の尾を眺めて、彼はその働きぶりに眦を和ませた。

「そうしよう。一緒に入るか?」
「んん、どうしよっかな、あんたが入ってるうちにスープ温めようかと」
「今のうちが良いと思うぞ」
「そう?」

 首を傾げた彼女に、サンクレッドは微笑むと、テーブルに置いていた古新聞の包みをおもむろに解いた。
 ラベルすら貼られていない中型の瓶に、金色の液体がたっぷりと入っている。目を丸くした彼女が、興味津々に角先を寄せるので、サンクレッドは軽く瓶を振ってやった。たぷん、たぷん、と幸せの音がする。

「ハニーヤードの蜂蜜酒だ」
「うそ!?」

 頭の先から尻尾までをピンと伸ばして、彼女は歓喜の声を上げた。テーブルに手をついて前のめりになりながら、ぴょこぴょこと踵を上げ下げし始める。(サンクレッドは、この妻の動きを勝手に“喜びステップ”と呼んでいた。)
 彼女が身体中で嬉しがるのも、無理はなかった。何せこの蜂蜜酒は大人気の品だ。黒衣森東部に住むホウソーン一家の嫁が、養蜂の傍らでこしらえたもので、やってくる衛士や冒険者に振る舞ううちに評判が広まった。今ではこの蜂蜜酒を目当てに訪れる者もいるほどだ。
 瓶ごと妻に渡してやれば、彼女は大事そうにそれを抱きかかえる。

「こんなに、よく譲ってもらえたね!」
「まあ、ちょっとしたコネがあるんだ」

 今にも踊り出しそうな彼女を眺め、サンクレッドは堪えきれず笑いだした。喜んでもらえる確信はあったが、これほどとは。
 彼女は無類の酒好きである。酒好きの上、うわばみである。エールに、ワインに、清酒や蒸留酒、酒と名がつくものならば何でも飲むのだ。放っておくと樽ごと干すため、サンクレッドは、よくもまあこんな小さな身体に入るものだと、いつも感心してしまうのだった。
 彼女が、彼女の好きなものに囲まれて、ふくふくとほっぺたを赤くしているのを見るのが好きだ。手を伸ばすと、彼女が何の疑いなく顔を寄せてくれるから、サンクレッドは満ち足りてその頬を撫でてやる。

「一緒に飲もう。食って飲んで、そのまま倒れても良いように、寝支度を済ませておかないか?」

 彼の提案を、彼女はいたく気に入ったようだった。アウラ族の妻は、大きく尻尾を揺らして喜色を露にすると、腰かけているサンクレッドの頭頂にごりごりと角を擦り付ける。全身全霊の愛情表現だった。

「お風呂にお湯張ってくるね!」
「こら、待て、酒を抱えたまま行くなよ」

 駆け出そうとした彼女を捕まえて、サンクレッドは可笑しそうに肩を揺らした。気に入ったものをいったん手放すという選択肢を忘れる様子が、いとけない子どもみたいだ。
 彼女は身一つで蛮神を屠り、兵器を破壊し、革命をなしてきた救世の英雄である。その女傑が、サンクレッドの前では花弁みたいに柔らかくて優しいから、つい誤解をする。小さくて、呑気で、戦なんか知らない生き物のようにさえ感じてしまう。彼女がそうやって、二人暮らしの巣の中で安らいでいることが、サンクレッドの数少ない確かな誇りであった。

「俺が行くから、それをタルトと一緒に冷やしておいてくれ」
「そーお?」
「そのくらい、渋るほど疲れちゃいないさ」

 彼女の頭を撫でくり回しながら立ち上がる。にこにこと機嫌の良い妻の角の先に口付けてから、サンクレッドは爪先にスリッパをひっかけて、浴室へと向かった。
 広く、清潔で、開放的な空間である。備え付けた棚には、やれ入浴剤だの石鹸だの保湿剤だのと、彼女が集めた美容品が鎮座していて、まるで宝物庫のごとき賑やかさだ。大きな窓の向こう側では、夕焼けのオレンジがとっくに夜の紫と混じり、磨りガラスへほんのり色を映し出している。彼女がこだわった癒しの空間だ。サンクレッドも恩恵を受けており、家ではつい入浴の時間が延びがちである。
 蛇口を捻り、大理石の浴槽へと湯を流し入れながら、サンクレッドは長く長く息を吐いた。耳を澄ませば住まいじゅうに、ぽとぽと跳ねる足音が聞き取れるから、彼女のはしゃぎっぷりに頬を緩めてしまう。
 自分がこの世界で一番の幸せ者である。大袈裟な錯覚と自惚れた確信が、ずっとサンクレッドの心にあった。あまりにも幸せで、満たされていて、温かく優しい時間を彼女と過ごしていた。肯定され、赦されて、愛されている。まるで湯水に包まれているようだ、と、彼は湯船に溜まりゆく透明へと腕をくぐらせた。

(しあわせだ)

 他人によってやっと一筋光を得るような、影のごとき半生である。そんな己だから、無縁であると決め付けていた、人並みの生活だった。それがこうしてすぐ手もとに在る。
 ────これ以上を求めるのは、強欲というものだろうか。

「サンクレッド」

 背中に低い体温が触れた。細い指がちょこちょこと肩甲骨をくすぐるので、サンクレッドは笑いながら、濡れたままの手で悪戯な妻を捕まえた。きゅう、と彼女の喉から鳴き声があがる。

「お湯に何か入れてもいーい?」
「ああ」
「どんなのが良いとかある?」
「お前の気分で良いさ」

 おとなしく腕の中に収まっている妻に、サンクレッドは恭しく唇を寄せた。髪に鼻先をくぐらせ、吐息を頭皮に含ませる。

「お前の好きなものが良い」
「そればっかり」

 くすくすと肩を揺らした女傑は、その腕をサンクレッドの腰に回してぎゅうと締め上げた。彼女の力なんかじゃ少しも苦しくないくせに、戯れで「ぐえ」と声を漏らしたサンクレッドは、自分で可笑しくなって破顔する。
 そんな風にふたりでじゃれあいながら、とぽとぽと湯が跳ねる音を聞いていた。



 結局、入浴剤は蜂蜜由来のものになった。殺菌作用と保湿力に優れるため、その成分を用いた品は、古来より重宝されている。甘やかな香りに晩酌への期待を高めながら、ゆっくりと湯浴みを楽しめば、肌に潤いが馴染んでいった。長旅帰りのくたびれた男は、すっかり汗と汚れとを落としきって覇気を取り戻す。温まった妻の体を拭いてやって、サンクレッドは彼女に髪を拭かれて、さっさと着替えてしまえば、このあとの予定は夕食をとるだけだ。清潔でよく乾いた木綿の寝間着の肌触りが、春の夜を過ごしやすくしてくれるようだった。

「せっかくだから、お肉焼いちゃった。合うかな?」

 軽やかなネグリジェ姿の彼女は、うきうきと楽しそうな足取りで、キッチンからダイニングテーブルへと料理を運び出す。降って湧いた機会だから、蜂蜜酒と合わせていただくための晩餐の用意はない。それでも彼女が、家にある食材をひっくり返して、それらしく拵えた食事だ。
 アルドゴートの肉を、ブラックペッパーとハーブソルトをたっぷりまぶして焼き、ひとくち大に切り分けたダイスステーキ。酒を片手につまめるようにと、呑兵衛にしか分からない気遣いの産物である。

「張り切ったじゃないか」
「ふふ。革細工師ギルドで、アルドゴートの皮が必要になったみたいでね。お肉も一緒に売ってたの」
「タイミングが良かったな。黒衣森じゃあ、アンテロープがやっと太り始めたところだから」
「ね。アルドゴートはいつもむちむち」

 南の荒野ザナラーンには、冬らしい冬は来ない。雪が降るほど冷え込むこともあるにはあるが、そう期間は長くない。ほとんど天変地異のようなものである。吹き上がる砂と強すぎる日差し、海側からの塩を含んだ風により、環境自体は厳しいが、適応した植物であれば、通年でたくましく成長していく。その草を食む大山羊アルドゴートは、恩恵にあやかって、いつも健やかに肥えているのである。
 一方、ザナラーンより北、黒衣森の冬は静謐である。不可視の精霊の存在により恵みは保たれるが、その精霊がゆっくりと眠りにつくような────倣った森の獣たちも、巣穴で目を閉じるような────そんなふうに冬がやってくる。忍耐の季節を越えて、やっと活動を再開させる羚羊アンテロープたちは、今は比較的痩せているのであった。(春のアンテロープもまた美味いと笑う猟師も多いが、これはまた別の話だ。)
 そんなわけで、森都において、春に食い応えのある肉が食卓にあがるのはなかなかの贅沢だ。サンクレッドにとってはそれだけで十分なくらいだが、光の戦士であり冒険者である妻は、各地からおいしいものをかき集めては、愛しい夫に振る舞ってくれるのだった。
 肉の隣に並べるのはシンプルなマグカップだ。入っているのは、春採れのキャベツとオニオンをふんだんに入れたミネストローネ。
 それと、ドマからお裾分けで届いたというタケノコを、ガーリックバターと醤油でソテーしたもの。これがなかなか、エールに合うのだ。蜂蜜酒との相性までは測れないが、サンクレッドは妻の作るこれが好きだった。
 つまむものばかりでは腹が満たされないだろうと、大皿には丸いパンが積み上げられる。おまけにウッドプレートには、ガレアンチーズと生ハムを乗せたクラッカーが並ぶという凶悪ぶりで、サンクレッドは思わず両手を擦り合わせた。
 簡素というには豪勢で、豪華というには質素だ。ゆえにそれは、家庭の味に飢えた男を満たすご馳走であった。

「どう、おいしそ?」
「うまい」
「まだ食べてないくせに!」

 四人がけの机に二人分の皿とグラスを並べ、夫婦で向かい合うようにして座り、だだっ広く使う。来客を見越せばこの大きさでちょうど良いものだし、いつか────いつか、家族が増えて、日常的に椅子が埋まるようになるのかもしれない。そんな可能性を考慮して、ふたりで選んだテーブルだった。
 笑う彼女が、蜂蜜酒をサンクレッドに差し向ける。彼はその瓶を受け取ると、携帯ナイフでさっさと栓をあけてやった。

「ほら」

 彼女にグラスを構えるよう促すのだが、酒に目がないはずの妻は、はにかんで首を振る。

「ううん、あんたが先だから」
「今日はお前から、な?」

 サンクレッドは片手でグラスを取ると、そっと彼女の前に出す。慎ましい女ごっこに付き合ってやっても良いのだが、こんなにも賑やかな食事を用意させておいて、酒まで融通されるようでは、元色男の名が廃る。
 それに。サンクレッドは、蜂蜜酒がたっぷり入った瓶を、ゆっくり揺らしてみせた。動きに合わせて彼女の視線がきょときょと動いている。まるで獲物を定めた肉食の獣みたいで、そんな彼女から、“開けたての酒を一番にもらう楽しみ”を奪うなんて、彼にはとても出来なかった。
 おずおずと伸びてきた彼女の指に、グラスを触れさせる。そうすると彼女は、嬉しそうに唇をむずむずと擦り合わせ、しっかりグラスを握った。

「ありがと」
「俺こそ。飯、ありがとうな」

 サンクレッドが瓶を傾ける。とぽん、と蜂蜜酒が波打って、幸せの音を響かせた。透き通る黄金色が細く形を変えて、瓶の首を通り、口から、溢れて。とぽ、とぽ、とぽ。幸福なリズムだ。何とも耳に心地よいこの音ばかりは、最初に酒を注ぐときしか聞くことができなくて、夫婦そろって笑顔になってしまう。グラスに黄金の酒が溜まってゆく。

「……ウリエンジェの目の色みたい」

 彼女がそう呟くので、サンクレッドはくすくす肩を揺らした。

「そこは俺じゃないのか?」
「あんたの目は、うーん、ちょっと違うんだもの」

 十分に酒が満ちる頃、彼は瓶の傾きを垂直に戻した。手を伸ばしてきた妻に渡してやる。彼女は蜂蜜酒の入ったそれを抱えて、サンクレッドが空のグラスを取るのを見つめていた。彼の榛色の瞳が、室内の灯りを優しく反射する様に、眦を和ませていた。しばし視線を交わしていれば、彼女ははにかんで首を竦める。

「私の好きな色してる」

 今すぐキスしてやろうか。サンクレッドは、銀の睫毛の先を震わせた。実行に移せばきっと長くなって、せっかくの食事が冷めるから、奥歯を噛むことで笑顔を作った。

「そりゃ、何よりだ」

 つまらない返事しかできない自分に呆れながら、グラスを差し出す。満面の笑みで酒瓶を傾けた彼女は、サンクレッドがしてくれたのと同じように、黄金を注いだ。甘やかな香りが揺れる水面の上に弾けていく。
 そうして、準備は整った。美味そうな飯。美味そうな酒。互いに掲げるグラス。

「それじゃ、乾杯」
「乾杯!」

 ころん、と、重ねた杯が音を立てた。
 サンクレッドがダイスステーキをフォークで刺す間に、彼女は早速酒に口をつけていた。大好きなものを大事に堪能する、ゆったりとした所作だ。鼻先を撫でる豊潤な香りで、ほ、と綻んだ唇に、酒を含ませてゆく。舌に触れるのは、まさに蜂蜜そのままの、とろりとした甘さだ。嗅覚と味覚で味わう黄金の蜜の多幸が、酒気で頬まで押し上げられる。そこで初めて、隠れた酸味を知るのだ。この酸味は蜂蜜を舐めたときにも感じるもので、甘味を引き立てると同時にいくらでも飲めそうな錯覚を起こすとしみじみ噛みしめる。
 光の戦士たる女は、一口ぶんの蜂蜜酒を、それはそれはじっくりと味わって、惜しみながら嚥下した。胸の奥を流れていく極上に、嗚呼、と思わず声が漏れる。
 その様子を見ていたサンクレッドは、あんまり旨そうに飲む彼女の様子に微笑んだ。

「気に入ったみたいだな」
「うん、すっごく美味しい!」

 酒好きのうわばみ女であるが、何がなんでもあればあるだけ飲みたいわけではない。むしろ、上質な酒はじっくりと、料理と会話と共に楽しみたいのが彼女である。ご機嫌にもう一口飲む彼女の笑顔を付け合わせとして、サンクレッドはダイスステーキを噛み締めた。脂の旨さが口いっぱいに染みてくる。うまい。命を糧にしている自覚が芽生える。彼は三十路に入ったばかりの、現役の前衛で、男だ。肉の重さにはまだまだ負ける気がしなかった。酒で脂を喉の奥へと洗い流す快感を知っているから、尚更。
 サンクレッドはグラスに口をつけると、彼女に倣うようにして、一口含んだ。甘い、が、酒の苦みと本来ある酸味のおかげで、粘るようなしつこさはない。むしろ爽やかにすら感じる蜂蜜酒は、舌に居残る旨味と絡み、口蓋に余韻を残していく。

「……合うな。蜂蜜酒と肉」
「ほんと?」
「ああ。これなら生ハムとチーズも」

 犯罪的なクラッカーを、さして苦労することなく一口で迎え入れる。塩味、チーズのコク、クラッカーの食感。酒をすすめる業の塊だ。ついエールのようにグイグイ豪快にやりたくなるが、蜂蜜酒は飲みやすさと反してそこそこにキツい酒だ。迂闊に呷ればすぐ潰れてしまうだろう。サンクレッドは衝動を抑えながら、二口だけ、蜂蜜酒を含んだ。
 彼の反応を見ていた妻も、クラッカーに食い付いた。夫と比べると随分口が小さいものだから、半分だけかじって、ずり落ちた生ハムがついてくるのでそれも食べて、彼女はにっこり笑った。

「間違いないね」
「間違いないな」

 頷き合う代わりに、もう一度ころんとグラスを重ねた。美味い酒に、美味い料理。何度でも乾杯したくなる。

「スープも飲んでね、野菜いっぱいだから」
「ん」

 ダイスステーキをもうふたつ口に入れたところで、妻から暗に「野菜も採れ」と窘められた。別に野菜が苦手とか嫌いとかそんなことはないのだが、ついフォークが向かうのは、より肉々しい方だ。彼女は何となくそれを察していて、だからスープにはいつも野菜をたくさん入れて、摂取しやすいようにしてくれていた。
 サンクレッドはマグカップを引き寄せると、鼻先に触れる湯気で熱さを測り、それからゆっくり啜った。キャベツとオニオンの甘みだ。酒と肉に魅了されていた心を落ち着けてくれるような、ほんのりと素朴な旨味である。サンクレッドは、鳩尾の奥を通っていく熱を感じて、ほっと息を吐いた。

「おいしー?」
「うまいよ」
「ふふ」

 彼女が嬉しそうにはにかんだ。サンクレッドは、いつの間にか空になっていた彼女のグラスに蜂蜜酒をたっぷり注いでやって、この食卓への感謝とした。

(しあわせだ、な)

 何度も、何度も、幸福が胸を抉る。サンクレッドは、目元がじんと温まっていくのを感じていた。彼女と囲む食卓は、味も栄養もその時間も、丸ごとサンクレッドに優しくて、────いつか悪童が唾を吐きながらも夢想した未来に、よく似ていた。
 タケノコのソテーを口に運ぶ。ざくりと歯で割ればガーリックと醤油の風味が口内で弾けるので、サンクレッドは思わず歓喜で唸ってしまった。蜂蜜酒を一口飲んだところで、妻たる女が、あ、と声をあげる。

「エールも冷やしてあるよ。持ってくる?」

 いつもこいつとエールを一緒にやっているから、当然覚えていたらしい。サンクレッドは、思案する暇も見せず、笑って首を振った。

「いや、良いさ。……今日は、蜂蜜酒の気分なんだ」
「ふぅん?」

 小首を傾げた彼女は、ちみりと黄金の酒で舌を湿らせ、くすくすと肩を揺らす。

「こういう……甘いお酒も、好きなの?」

 普段すっきりと苦いエールを傾けているような男が、口当たりの良い酒を選んで飲んでいる光景が、彼女には何だか面白かったらしい。女々しい、とまでは言わないが、意外な可愛い趣味のように映ったのだろう。
 確かに美味い蜂蜜酒ではあるが────好みだから飲んでいるというわけでも、ない。サンクレッドは妻の笑顔におっとり目を細め、もう一口蜂蜜酒を呷り、グラスを置いた。

「ハネムーンの語源って、知ってるか?」

 彼女は片眉を上げてサンクレッドを見た。質問に対して質問が返ってきたことに対して、咎めたてるような間柄ではないから、光の戦士たるアウラの女は、のんびり尾の先をうねらせた。
 ハネムーン。新婚旅行。言葉の意味こそ知ってはいるが、さて、成り立ちや歴史に思いを馳せたことはなかった。彼女は首を傾げると、両手でグラスを持ち直し、くぴりと蜂蜜酒を含んだ。話の続きを促す仕草である。サンクレッドは彼女の意図を正しく読み取ると、笑みを深めて口を開いた。

HONEY MOON蜂蜜の月。月が満ちては欠ける間、蜂蜜のように甘く過ごす夫婦の時を指す」

 滑らかな発音と美しい単語、聴覚に優しく触れる男声だ。サンクレッドが愛の吟遊詩人なんて名乗っていた時のことを思い出す。心根の真面目な男が、教養と共に身に付けた世渡りのすべは、今もなおこうして活きて、大いに妻を楽しませていた。彼の話し声は心地好い。彼女は、うっとりと角を傾けた。

「それが転じて、結婚してすぐの旅行のことを言うようになったんだが……もうひとつ由来がある」
「もうひとつ?」
「それがこの蜂蜜酒ってわけだ」

 サンクレッドはグラスを掲げ、たぷんと蜂蜜酒を揺らしてみせた。黄金の水面が、灯りから注ぐ光を含んで輝く。立ち上る甘い香りを吸い込むように、彼は一口酒を飲んだ。

「古い慣習では、花嫁は結婚してからの一ヶ月間、家で蜂蜜酒を作っていたらしい」
「自分で作れるんだ」
「醸造酒だからな。発酵させること自体は簡単らしいぞ」

 美味く作れるかはともかくな、と言い置いて笑い、サンクレッドはもう一口蜂蜜酒を飲んだ。妻たる彼女も、何となく倣って酒に口をつける。

「そうして栄養価の高い蜂蜜酒を花婿に飲ませ、夫婦は子作りに励んでいたんだ」

 ────酒を飲み込む音が、妙に大きく響いた気がした。
 彼女は何度か瞼を開閉させると、グラスに唇を触れさせたまま、サンクレッドを見た。酒を飲み干した彼が、慈しむ眼差しで妻を眺めている。蜜を湛えたような、鮮やかなヘーゼル・アイだ。溺れそうなほどの甘やかさ。秘められた真意が滲んでいるようで、不意にそこに触れてしまった気がして、彼女は頬に熱が上るのを自覚した。

「……そ……う、なの」

 相槌のつもりで発した声が掠れる。きっと、勘付いたことに感付かれている。彼女は何となくサンクレッドの顔が見れなくなって、蜂蜜酒に視線を落とすことで逃れた。あまいかおりがする。

「ハニーヤードのそばに教会があるだろ。あの立地も、その慣習の名残らしい」
「あっ。あー。そっ、か。そう……」

 何でもない振りが出来ない。演技が下手である。英雄だなんて猛々しい異名のついた女傑は、乙女のように恥じらったまま、蜂蜜酒の入ったグラスを置いたり抱えたりした。
 子作り。こづくり。子作りか。そういう、ことか。サンクレッドが“そのつもり”で酒を用意したのだと、察せられるほどに雄弁な、優しい声音だった。彼女はいよいよ頬を押さえると、パンを食い出したサンクレッドの手もとを見つめた。食事中に相応しくない淫らなことを考えてしまう。その指が腰に食い込む夜のこと、など。
 仲睦まじい夫婦なものだから、当然、数えきれないほどに心も体も重ねてきた。しかしそれが子孫を残すための行為であったかと問われれば、答えは否だ。サンクレッドと彼女にとって、それは愛情表現のうちであって────つまり今まで、積極的に、ふたりの間に子どもを作ろうとはしなかったのである。
 もちろん、授かれるものであれば嬉しい。彼女は子どもというものが好きだ。しかし彼女は冒険者で、光の戦士で、英雄である。多くの時間を、巣を離れ、旅と戦に費やす生き物である。サンクレッドもまた、魂への誓いのために各地を飛び回るから、腰を据えねばならない状況を進んで迎えようとしなかった。暗黙の了解であった。お互いが、お互いの道を善しとするから。
 そうであったはずだ。唐突に打ち込まれた変化への誘惑に対して、彼女は────ゆっくりグラスを手に取ると、蜂蜜酒の黄金色をすっかり飲み干してみせた。

(うれしい、)

 頬に歓喜が灯る。ふにゃふにゃに緩んだ口もとを、グラスを置いた両手で隠し、彼女は角の先まで温まる心地を堪能していた。サンクレッドがこれから先の未来に、取り返しのつかない介入をしようとしてくれることが、とてもとても喜ばしかった。

「えへ」
「どうした、可愛い顔して」
「んーん。んー」

 サンクレッドのはにかんだ表情にたまらなくなって、彼女は曖昧な返事をした。つい尻尾が大きく揺れる。彼がそう望んでくれたことが、嬉しくて、愛おしくて、ぎゅっと凝縮した心が弾けそうだ。しかし、「では今すぐ子作りしましょう!」なんていきなり飛び付くのもはしたなく思えて、彼女はうんうん唸りながら視線を巡らせた。そうして、頬を赤く染めながら、囁く。

「……酔っちゃった、かも」

 サンクレッドの瞳が、微かに見張られた。それから、堪えきれない愛着の笑みが溢れ落ちる。
 酔うはずがない。これよりずっと強い酒を、彼女が干すところを多く見ている。
 だから、その言葉の意味は、別にあるのだ。
 サンクレッドは妻へと手を差し伸べた。彼女の細い指が、傷の残る手のひらに添えられるのと同時に、ふたりで微笑み合う。

「タルト、まだ食ってないだろ。良いのか?」
「もう味分かんないもん……明日にする」
「はは」

 口を尖らせる彼女に、笑ってサンクレッドは立ち上がった。確かに、こんなふうに滲まされてしまっては、素直に食事を楽しむ場合ではなかったかもしれない。
 机の上の料理たちを寄せると、アイスシャードが仕込んであるフードカバーですっかり覆う。それから、サンクレッドは空のグラスを流し台へと持っていった。

「あ、良いよ、私やるから」
「酔ってるんだろ、甘えてくれよ」
「じゃあ水につけるだけでいいから……」

 もたもたとサンクレッドのあとを追って歩き、彼女は夫の腰に背後から取り付いた。酒のせいか、あるいは別の要因か、角を寄せた背中は熱い。蛇口から流れる水の音が心地好いほどに。グラスを軽くゆすいでくれたらしい彼に寄り添っていれば、くすくすとその身が揺れた。抱きつく腕に、ぽんと軽く指が触れる。

「おいで」

 彼の声につられて、顔を上げる。顔を上げて、彼女は細く息を吐いた。眩しい銀の睫毛だ。サンクレッドがあんまりに優しい顔で笑っていてくれるから、眼差しで慈しんでくれるものだから、そのせいでほろりと皮膚が溶けていくような気がする。剥き出しの心臓に恋が刺さって、とくとくと甘い血を流すような。
 彼女はサンクレッドを解放すると、代わりに彼の首めがけて思いっきり手を伸ばした。そうすると掬い上げられるよう抱きかかえられて、彼女は夫の腕の中にすっぽり収まる。細い腕が、蛇のように彼の首へとまとわりついた。

「ちょっとおとなしく、な」

 支える彼の腕が左のみになったところで、取り落とされるような不安はちっともなくて、何をしているんだろうと視線を向ければ、水の入ったボトルを手にするところだった。いつもベッドサイドに水を置いてくれているのは、サンクレッドである。

「……律儀よね、ほんとに」
「喉乾くようなこと、するからな」

 ちゅ、とリップ音が直接角に触れた。頬を、髪を、首筋を、肩を、サンクレッドの唇が撫でていく。大事に抱えられて寝室へと連れられゆく間の戯れだ。愛着の仕草と、行為への予感に、彼女は既にとろりと脱力していた。
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