星空に想いを巡らせ
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ここを誰かと歩くのは、いつ以来だろう。
以前は一緒にはしゃぐ友達がいたけれど、みんな忙しい様で今はなかなか会えていない。
花火を持って追いかけ合ったり、お面をつけて写真を撮ったり。
夜が明けるまで話し込んで……本当に楽しかった。
そんな楽しい思い出も多忙な日常に埋もれて薄れていく。
この季節が巡ってきても、思い出す事もなくなるくらいに。
でも本当は、思い出すのが怖かったのかもしれない。
変わりゆく世界の中で、もうあの日々は戻らない事を認めたくなかっただけなのかもしれない。
「ルシア」
「あっ……はい?」
名前を呼ばれて慌てて顔を向ける。
彼はにこりと微笑うと、露店で売っていた花の髪飾りをそっと頭に添えてくれた。
「……ありがとう」
髪飾りに触れながらお礼を言う。
そのあと二人で夜店を回り、花火を買って遊んでみたり、星を眺めたり、お化け屋敷を探検したり。
とても楽しい時間を過ごした。
あっと言う間に時が過ぎて行き、すっかり夜も深まって人も疎らになってきた頃。
二人で満天の星空を見上げていた。
「……エイトはいつまで此処にいられるの?」
「うーん……いつまでだろう。本当はずっとこうしていたいけど、きっと無理なんだろうなぁ」
「え……?」
ほら、と差し出された手は微かに透けていて。
ルシアは思わずそれを凝視してしまう。
「……エイト、貴方まさか……戦いの最中で死んで最後に逢いに来た、とかじゃないよね?もしかして、ザオ待ちしてるの?」
「違う違う!仕事終わって、そろそろ寝ようかなって思ってたら部屋の窓叩かれて……浴衣投げ付けられて気付いたらここに居た、っていう感じだったから。死んではいないよ」
「それなら良いけど……」
一緒に過ごせる時間はあまり残されていないのかと察したルシアは一抹の寂しさを覚える。
思えばまた会いに行くといって別れてから、その約束を一度も果たせずにいた。
「なかなか会いに行けなくてごめんね……なんか、想定外の事ばっかり起こっちゃって。その度に召集かかるから、抜け出せなくて……」
「ううん、そんな事だろうと思ってたから。それに……」
話を止めたエイトを不審に思って彼を見上げると、身体を抱き寄せられる。
急な出来事に頭がついて行かず、最初は放心していたルシアだったが、自分の置かれている立場を理解した途端、胸の音が早鐘を打ちだす。
「君は此処を離れられないだろうから、僕が逢いに行くよ。こっちはもう大分落ち着いてるから」
「で、でも……」
「もう決めたから。だから……待ってて?」
「だけど、そんな事したら……!」
あの世界の英雄を自分一人の為に此方に来させてしまうなんて。
そう言いたかった筈なのに、唇を塞がれ紡ぎかけた言葉は途絶え、何も発せなくなる。
エイトへの気持ちに嘘なんてない。
ただ、受け入れるのが怖かった。
共に旅をしている間にお互いの気持ちを確かめ合ったけれど、ずっと一緒にいられない事はわかっていた。
だから敢えて、それ以上は何もしなかった。
別れの時に交わした再会の約束も、どうせ叶えられないものだと思っていた。
それでも今、エイトは目の前にいて。キスもできて。
触れあっていた唇が名残惜しそうに離れていく。
これでお別れなんだ。
そう悟った瞬間、ルシアの瞳から涙が溢れ出る。
「……もう、ルシア、また泣いてる」
「エイトのせいだよ……貴方の前だと、私……弱体化しちゃう」
「そうなの?それはそれで、ちょっと嬉しい」
指先で透明な雫を救い上げながらエイトが嬉しそうに微笑う。
徐々にその指先は風景の中に融けて行き、やがて雫を拾えなくなっていた。
「今日は、ありがとう……本当に、楽しかった。またエイトに逢えて嬉しかったよ」
「僕の方こそ、ありがとう。……絶対にそっちに行くから、待っててね」
「うん……待ってる……」
エイトの身体が一瞬光を放ち、そのまま消え去っていく。
すると、地面に一枚のヒトガタを模した紙が落ちていた。
ルシアはそれを拾い上げ、皺にならない様気を回しつつぎゅっと抱きしめる。
「……ルシアさん、ごめんなさいね。私の力だと彼の想いを此方に運んでくる事が精一杯だったの。余計な事……だったかな?」
ずっと様子を伺っていたらしい織姫が声を掛けて来た。
ルシアは首を左右に振り、織姫の問いかけを否定する。
「……ありがとうございました。とても、素敵な夢を見られました」
「そんなに想い合っているのに、世界が違うから逢えないなんてあんまりじゃない?だから、縁結びの象徴としてちょっと頑張っちゃった!」
「流石僕のオリリン!なんて優しいんだ……!」
「もう、ヒコリンったらぁ~!」
また二人の世界に入り込んでしまった織姫と彦星に手短に挨拶を済ませると、ルシアはその場を後にした。