星空に想いを巡らせ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「オリリン……」
「ヒコリン……」
「え?ちょ、こんなところで……!?あのー!すみません!私、帰って良いですか……?」
毎年恒例というべきか、問題が解決すると彦星も織姫もすっかり自分たちの世界に入り込んでしまっていて、カササギが止めに入らなかったら……とか考えると少々頭が痛い。
そんなこんなで今年も無事に晴天の下で七夕祭りは開催される事になり、願いの書かれた短冊が優しい夜風に吹かれてさわさわと揺らいでいた。
沢山の人が浴衣を身に纏い、それぞれ祭りを楽しんでいる。
露店で買った花火を手にはしゃぐ人に、恋人同時で寄り添って満天の星空を眺めている人。
そんな人たちを眺めながら、ルシアは彦星からお礼にと貰った短冊を手にしていた。
(何を書こうかなぁ……今回もお姉ちゃんに逢えますように、で良いかな?)
自分の中にある願い事なんてそれくらいしかない。
そんな風に思いながら筆を走らせようとした刹那、急に背後から誰かに抱きしめられる。
酔っ払いか不審者にでも絡まれたかと思い、咄嗟に身を翻して拳を見舞ってやろうと肘を引いて、そこでルシアは動作を止めた。
「えっ……?」
「殴るのはちょっと待って欲しいかな、なんて……」
浴衣を身に纏い、背後に立っていたのはエイトだった。
どうしてここに居るの?とか、どうやって此処へ来たの?とか、言いたいことは沢山あるというのに、驚きからか何も言葉が出てこない。
「な……なんで?」
やっとの思いで口をついて出た言葉はそれだけだった。
様々な想いに掻き消えて行った言葉の代わりに、涙が溢れてくる。
「わっ、泣かないで?」
「だって……いきなりいるから、びっくりしちゃって……」
「ごめん。驚かすつもりはなかったんだけど……嘘、ちょっとびっくりした顔が見たかった」
いきなり抱きしめておいて驚かすつもりはないだなんて、少々無理があると思ったのか、少しバツが悪そうに笑う彼に少しだけ腹が立って来たルシアは、背中を向けて尚も溢れ出る涙を拭う。
もう逢えないと思っていた、逢ってはいけないと思っていた人が急に目の前に現れたのだから、気が動転してしまっても仕方ない。
そんなルシアの背中を眺めていたエイトは、反撃を受けない様に気を付けながらそっと彼女の肩に手を触れる。
「なんか急に呼ばれちゃって……あの人達に」
「あの人達?」
エイトが指差した方向には織姫と彦星が並んで立っていて、此方に気付くなり笑顔で手を振ってきた。
大方、いつも後から来る織姫が何か手を回したんだろうと勝手に結論付けてルシアは小さく溜息を吐いた。
「それにしたって……そっちの世界は大丈夫なの?」
「今のところ平和そのものだから何も問題ないよ」
「それなら、良いけど……」
折角逢えたのだから、この際そういった込み入った事情は置いておこうとルシアは気を取り直す。
「……っていうかその浴衣、どうしたの?」
「織姫様に貰ったんだよ。今年の新作だよ!どうぞ!って」
「ああ……そう」
なんとなくその絵面が想像できて、ルシアが苦笑する。
「ルシアは浴衣着ないの?」
「え?私?……ああ、うーん……」
用事が澄んだら直ぐに帰るつもりだったルシアは普段着のままだった。
エイトは浴衣を着ているし、このままだと浮いてしまうかもしれないと思い、少しだけこの場で彼に待ってもらい、いそいそと浴衣に着替えに行く。
去年貰った白い布地に蝶の模様が描かれた浴衣を身に付け、露店で売っていた草履を穿き、髪を纏めあげると再びエイトの元へ戻る。
「お待たせ!……変じゃないかな」
エイトの前に行き着くなり、くるりと一回転して見せて彼の反応を伺う。
エイトは少しの間呆気にとられた後、頬を朱に染めて優しく微笑んだ。
「……凄く、綺麗だよ」
「あ、ありがとう……」
お世辞だとしてもその言葉はとても嬉しくて、ルシアも照れながらも笑み返す。
「それじゃ、行こうか!こういう所初めてだから色々見て回りたいな」
「そうなの?それじゃあ、行きましょうか」
歩き出すなり当たり前の様に手を取られ、ルシアは顔が熱くなっていくのを感じつつも、自分のものより大きいそれをそっと握り返した。