暗い檻の中で
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宿に帰り着くと、みんなぐっすりと眠っていた。
思えば昨夜は眠れていなかったのだから、当然と言えば当然かもしれないが。
「今日は休息を取りつつ、出発の準備かな。ルシアもゆっくりしててね」
「う、うん。ありがとう」
夢と現の間であのハープの音色が聴こえた気がしてもしかしたら、と思ったのだけれど。
ルシアが部屋の中を見渡すが、やっぱりと言うかイシュマウリの姿は無かった。
男性用にもう一部屋取ってあるらしく、エイトはそちらへ入っていった。
ベッドで静かに寝息を立てているゼシカを少しの間眺めた後、ルシアは椅子に腰かけて、何をするでもなくぼんやりと佇む。
(はぁ……なんか、緊張しちゃったな……)
エイトの背中の温もりを思い出して顔が熱くなる。
自分の恋愛遍歴を思い返してみるけれど、恐らくこんな経験は初めてだ。
胸に手を当てると、未だに鼓動は落ち着きを取り戻せないでいた。
(調子狂っちゃう……ダメダメ、忘れよう!)
ゼシカに倣ってベッドに潜り込むと、ルシアは目を閉じた。
「よっ、エイト」
「あれ……ククール、起きてたんだ」
「アレより後になるとなかなか寝付けなくてな」
そういってククールは部屋の一番奥にあるベッドを指さす。
そこではヤンガスが豪快ないびきを立てて眠っていた。
「ああ……そうだね」
「それで?どうだったんだよ?」
「どうって……ちゃんとトロデ王の所まで行ってきたよ」
「そうじゃない。お前、ルシアを背負ってたろ?胸だよ胸」
「は、はぁ!?」
ククールがしょうもない話をしてくるのはいつもの事だけれど、先ほどまで背中に彼女の温もりがあっただけに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「知ってるか?抱っこよりおんぶの方が厭らしいんだぜ?エイト、お前結構スケベなんだな」
「な、何言ってるの!君と同類にしないでよ」
頬を朱くして否定してくるエイトに気を良くしたククールがニヤリと笑い、更に話を掘り下げようと彼に接近する。
「で?柔らかかったか?大きさは?」
「そんなの知らないよ!ほら、さっさと自分のベッドに戻って!僕もこれから仮眠とるから邪魔しないでよ!」
シッシッ、とククールを追い払うとエイトはバンダナを投げ捨ててさっさとベッドに入り込む。
ククールはつまらなそうにエイトを見遣ったあと、自分もベッドに横たわった。
(全く、ククールの奴……何言ってるんだよ……む、胸?別に、そんなつもりじゃ……)
先ほどまでの状況を思い出してみると、かぁっと顔が熱くなるのが分かる。
そこそこな時間、ルシアを抱えていた為か自分の衣服に微かに彼女の好い匂いが染み付いていて。
(……何を考えてるんだ僕は……早く、寝ないと……)
まさかククールなんかにこんなに動揺させられるだなんて思ってもみなかっただけに、若干悔しい。
自分はただ、ルシアを元気付けたかっただけなのに。
けれど、自分の発言を振り返ってみるとそれなりに思わせぶりな事を口走っていたかもしれない。
ただ、ルシアのコロコロ変わる表情を見ていたかった。
そうする事で彼女の無事を確かめたかった。
ルシアに気がない、と言ったら嘘になるかもしれない。
好いと思っている自覚も多少なりともある。
それでもこの気持ちが憧れなのか、恋なのかよくわからないのだ。
寝返りをうつと、対面のベッドで横たわっているククールと目が合った。
「……何」
「ルシアの事で頭がいっぱいで眠れないんだろうなーと思ってな?」
「余計なお世話だよ……」
これ以上会話をしても疲れるだけだと思い、エイトは黙って目を閉じる。
すると、ククールが起き上がり、軽く身形を整えて部屋から出て行こうとドアノブに手をかけた。
「……何処行くの?」
「これじゃいつまで経っても眠れないからな。ちょっと散歩でも行ってくる」
ククールの背中を見送ると、エイトは小さく息を吐き、再び目を閉じる。
そのまま眠りの中へと落ちて行った。
続きます。
(短編じゃなかったのか!ってツッコミはなしで……すみませぬ)