偽りの夜明け
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「まぁ、お前もあんまり無理すんな?こう言う事は時間が解決してくれるもんだしな。ゼシカが戻ったらさっさとお暇させてもらうわ」
この問題に自分たちの入る余地はないと直感したククールはそれだけ言うと部屋を出て行った。
ククールにまで気を遣われてなんて情けないんだろうと、エイトはその場で項垂れる。
ルシアを待機させたままだった事を思い出し、急いで自室を出た。
ルシアの部屋の前まで来ると、部屋の戸が少し空いていた。
中から話し声が聞こえてくる。
「あ、あの……困るんです、そういうの……」
「お嬢さんを一目見た時から虜になっておりました……せめて、一度だけでも……」
部屋の中で若い男がルシアに詰め寄っていた。
商談で城を訪れていた一行の息子だか何だかがルシアをやたら気にしていたのは知っていたけれど、わざわざ彼女を探し出してまで押し迫るなんて。
馬鹿な奴だと胸中で吐き捨てて勢いよくドアを開けた。
「そこで何してるんですか?」
「エイト……!」
衣服を剥ぎ取られそうになっていたルシアが男を突き飛ばして此方へ駆けてくる。
「チッ……あと少しだったのに」
恨めしそうにエイトを見遣った男は大急ぎで部屋を飛び出して行く。
「ああいう変なのがいるから、ちゃんと鍵をかけておかないとダメだよ」
「王様が呼んでるって言われたから、つい開けちゃって……ごめんなさい」
「……ルシア」
少し上目遣いで此方を見てくるルシアの頭を撫でて、自分の胸の中に収める。
自覚はないだろうが、彼女は無意識に色香を漂わせている。
そこに誘われて先ほどの男の様な奴が寄ってきてしまう。
前々から彼女は魅力的だったが、記憶を失ってから勇ましさが消えて可憐さが増し、ますます男受けが良くなってしまった様な気さえする。
「……エイト?」
「もう……」
自分だって、本当は彼女に触れたくて仕方ないのにずっとそれを堪えている。
こうして抱擁をしていても、キスをしても拒まれた様子は無かった。
けれど、何より余計なことをしてルシアの記憶が戻ってしまうのが怖い。
(……結局僕は、ルシアの味方をするフリをして……自分の都合の好いように彼女を閉じ込めてしまってるんだ……)
心地よさそうに瞳を閉じているルシアの髪を撫でて、エイトはちゃんと向き合おうと思った。
ちゃんと戸締りをするよう言いつけ、残りの仕事を終えにエイトはその場を後にした。
身体が動く様になってから、ルシアは城のあちこちで手伝いをして回っている。
彼女曰く、部屋でじっとしているとかえって疲れてしまうとか。
けれど、今日はあの怪しい商人がまだ滞在しているから外出を禁じておいた。
一日の仕事を終えて、漸くルシアの元を訪れられた頃には彼女は寝入ってしまっていた。
ベッドではなく、机に突っ伏して眠っているところをみると、自分の事を待っていてくれたのだろう。
そんな些細な事が嬉しくて、自然とエイトの表情が緩む。
「もう……こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ?」
ルシアをベッドに移動させて、自分もその隣で寝転ぶ。
どこか安堵したようなルシアの寝顔を眺めてい入るうちに、エイトも深い眠りへと落ちて行った。
「んっ……」
眩しい光に、エイトが目を醒ます。
「もう、遅い!……さっさと起きて!」
掛け布団を剥がされると同時に、聴きなれない女性の声が耳に入ってきた。
「漸くお目覚めね!早速だけど、貴方に協力してほしいの」
目の前の人物が誰なのかを、ぼんやりする頭で考えてみる。
けれど、自分の中に思い当たる節は何も無かった。
キョトンとしているエイトを見降ろし、彼女はやれやれと溜息を吐いた。
「突然知らない所に連れてこられて、周りに知り合いは誰もいない。……どう?ルシアの気持ちが分かった?」
「ルシア……?」
これは、夢なのだろうか?
それにしてもリアルすぎる。
木材の床に足をついた感覚や、窓から入る風が運んでくる花のいい香り。
世界の息吹きが鮮明に感じ取れた。
「ここはね、エテーネの村よ。私やルシアの故郷」
「貴女はルシアの事を知ってるの……?」
「当然よ!私はあの子の姉だもの」
「えっ……ルシアが探しているっていう、あのお姉さん!?」
ルシアと同じくらいの身長の彼女はどこか誇らしげに微笑んでいた。