偽りの夜明け

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ヒロイン



「……はぁ」

旅路が終わり、全てが……とも言えないけれど、元に戻った城内での生活。
近衛隊長に昇進した為、通常の業務の他にもやる事が沢山増え、それなりに多忙な日々を過ごしていた。

事務作業をひと段落させたエイトは筆を置いて部屋の窓を開けた。

心地よい風と共に、新鮮な空気が室内に流れ込んでくる。

ぼんやり外を眺めていると、これまでの旅路を思い出す。

大変な事もあったし、辛い経験もした。
それでも最期は笑顔で終着点までたどり着けて、本当に良かったと心から思う。

すると、次第に雲行きが怪しくなってきた。

これは一雨降られるなと戸に手を掛けると
ふと、遠くに光が見えた。

淡い光は徐々に此方へ向かって来ており、やがて城の中庭へと降り立つ。

警備の者は大分平和ボケしているのかそれに気付いていない様なので、気分転換も兼ねて自分でそれを確認しにいく事にした。

何かあった時の為にと机に立てかけておいた剣を手に取り、いそいそと部屋を出る。


「確か、この辺りに……」


光の降り立った場所を確認してみると、そこには人が倒れていた。

見るからに城の人間ではないが、よく見てみると見知った顔だった。


「……ルシア?」

かつて、一緒に旅をした仲間であるルシアがそこにいた。

異世界から何らかの理由で此方に迷い込み、ひょんな事から一緒に旅をすることになった仲間。

慌てて傍に駆け寄って彼女の身体を抱き起す。

ルシアルシア!」


名前を呼んでみるけれど、彼女はピクリとも動かなかった。

ルシアは最期に会った時に比べて痩せていた。
それに顔色も良くない。

咄嗟に彼女を抱きかかえると、その軽さに驚いてしまう。

一体何があったのだろう?

そう考えるよりも早く身体が動いていた。

バタバタと場内を駆けまわるエイトをすれ違う人たちが驚いて何事かと訊ねてくるが、応える余裕はなかった。

自室にルシアを連れ込むと、そっとベッドに横たわらせた。

パッと見たところ外傷は無さそうだ。


エイト?どうしたの?」


早くも騒ぎを聞きつけたらしいミーティアがやってきて、不安そうに部屋を覗き込む。


「……ルシアが……」


ルシア?……大変、お医者様を呼びましょう」


ただならぬ雰囲気を察したミーティアが機転を利かせて医者を呼びに駆けて行く。


ルシア……無茶しないって、言ったじゃないか……」


別れ際に交わした言葉を思い返す。

人の好い彼女の事だから、此方での旅が終わっても、これから先、更なる困難が待ち受けているのだろう。
それでもきっとルシアは傷つきながらも進んで行ってしまう。

無造作に放り出された手を握ると、それはとても冷たかった。

背筋に嫌な汗が伝う。

もしもこのまま目を醒まさなかったら……?
そんな最悪な考えが頭の中に浮かんでは消えていく。

それからどれくらいの時が流れたのか定かではないが、ミーティアが医者を連れて再び部屋を訪れた。

この場を一度医者に任せ、エイトはミーティア姫と一緒に部屋を出た。


「……ルシア、何があったの?」

「分からない……僕が駆け付けた時にはもうあの状態で……」


ルシアを発見した時の状況をミーティアに話しつつ、医者が出てくるのを待った。

それから暫く立って、漸く部屋のドアが開かれた。

ミーティアと二人して、思わず医者に詰め寄る。


「外傷は見られませんでしたが、腹部から背中にかけて大きな傷跡がありました。しかし殆ど消えかかっていたのでそちらは問題ないでしょう」

「大きな……傷痕……?」

医者の言葉を訊き、ミーティアの声が些か震える。

「ただし、酷く衰弱している様なので暫く療養が必要だと思います。根本的な原因はよく分かりません。あるとすれば……何か精神的に強いショックを受けてしまい、そのまま昏睡状態になっているのでしょう」

「じゃあ、ルシアはずっとこのままなのですか?」

「それは……分かりません。後は彼女次第です。一先ず身体の状態を治して様子を見てみましょう」

医者はそれだけ言うと、療養に必要な薬品を取りに行くと一礼して立ち去って行った。

ミーティアと二人で部屋に入ると、ルシアは変わらず眠りについていた。

「そんな……久しぶりに会えたのに……あっ!」

ミーティアがベッドに近寄ると、ルシアに掛けられていたシーツがスルスルと床に落ちた。

「これ……」

腹部にうっすらと傷痕が見えた。
まるで何かに腹を貫かれたような惨いものだ。
医者から聞いていたけれど、いざ目の前にしてみるとその痛々しさに思わず顔をしかめてしまう。

傷を見下ろしたまま立ち竦むミーティアの横で、エイトが落ちたシーツを拾い上げて、ルシアにかけ直した。


「ミーティア姫、ルシアは僕が見てるから……ミーティア姫はお戻り下さい」


「そんな!ミーティアも一緒に……」

一緒にいる、そう言いかけて言葉を止めた。
エイトの肩は微かに震えていた。
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