暗い檻の中で
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「……ちょっと、二人で話さない?」
「え……でも、時間を取らせてしまったからちゃんと謝らないと」
「まだ朝早いから寝てるよ」
そう言うと、エイトはルーラを唱えて勝手に場所を移動してまった。
勿論、背負われているのでされるがままに一緒に転移する羽目に。
行き着いたのは願いの丘だった。
もう夜が明けているので勿論月影の窓など在るわけもなく、ただの見晴らしの良い場所になっていた。
柔らかい草の上にルシアを降ろすと、彼女の隣にエイトも座り込む。
遠くの空を見つめながら、おもむろにエイトが言葉を紡ぎ始めた。
「君が目を覚まさなくなって、僕は藁をも掴む思いで此処に来たんだ。……これでどうにもならなかったら、今は諦めていたかもしれない」
「うん……」
「今どうにか出来なかったら、全部終わった後にもう一度君を救う方法を探そうって考えてた。……君は多くの人に必要とされている存在なのに、こんな所で燻らせておく訳にはいかないからね」
「……私は、この世界では必要ない……本来居るべきじゃないって、なんとなく、そんな気がしていたの……ごめんなさい、なんか自分を卑下してばかり……こんなだから呪われたりするのよね」
戦闘の技術や豊富な経験の為か、ルシアはとても頼りがいのある人物に見える。
穏やかな性格や責任感の強さから見ても、これまで沢山の人々を救って来たのだろう。
けれど、彼女はあくまでか弱い女性だ。
物怖じしていない様に見えるけれど、本当は不安で一杯なのかもしれない。
エイトだって、この旅の先行きを案じてしまう事があるのだから。
「ルシア……一人で抱え込むの、止めてね。僕じゃ君の悩みを解決するには力不足かもしれないけどさ……でも……足手まといは嫌だから」
「え?足手まとい?誰が?」
耳を疑うような言葉にルシアは目を見開いてエイトを見返す。
彼は何処かバツが悪そうに頬を掻いて笑った。
「だって、僕とルシアじゃ実力に差がありすぎるしさ……未だに勝てたことないし」
「エイトならあっという間に私の事を追い越しちゃうよ。何なら、今から一狩り行っちゃう?」
「病み上がりなんだから、ダメだよ」
「大丈夫!こう見えて結構タフなのよ?魔炎鳥に焼かれて大火傷した時だって、翌日には復活して討伐に行ったくらいだしね!」
「……そういうのを無茶っていうんだよ」
アストルティアには彼女を止めてくれる人物はいないのかと、エイトは思わずため息を吐いてしまう。
「身体は平気でも、心はそうじゃないでしょう?治癒魔法があったって傷を受ければ痛いし苦しいんだから。外傷だけ治せば良いってものじゃないよ」
「そ、そうね……」
エイトにまたもや言い負かされてしまい、ルシアは肩を竦めた。
けれど、確かに思い返してみれば自分の気持ちなんてあまり考えた事が無かったのかもしれない。
少しでも状況が好転してくれる様にと気ばかり焦ってしまっていて。
「こっちにいる間、そういう無理は控える事。何か困ったことがあったら僕でもゼシカにでも相談する事。……これ、約束だよ」
「はい……肝に銘じておきます」
はい、とエイト小指を差し出されてルシアは遠慮がちに自分の小指を絡めた。
「約束成立、と。それじゃあ戻ろうか」
「うん!……ありがとう」
またエイトが背中を差し出してくれたのだけれど、流石にそれは悪いのでルシアは自力でゆっくりと立ち上がった。
「ほら、もう大丈夫だから!」
「そっか、抱っこの方が良かったんだね?」
「えっ!?ちょっと、エイト!?」
エイトにひょいと抱え上げられてルシアはまたもや赤面してしまう。
「お、降ろして!本当に大丈夫だから!」
「寝るの禁止なんだし、こっちの方が寝られなくて良いんじゃない?」
「それ、どういう意味……」
ルシアの言葉を無視してエイトはルーラを唱えるとアスカンタへと戻っていく。
町の入り口から少し離れた所で待機していた馬車を見つけるとエイトはそのままゆっくりとそちらへ向かって歩き出す。
「お、降ろしてエイト!流石にこれはちょっと……」
一国の国王と姫君に会うのに、お姫様抱っこされたまま行くなんて絶対嫌だ。
寧ろ、本来ここはミーティア姫のポジションだというのに。
必死にエイトに訴えかけていると、観念したのか漸く降ろしてくれた。
羞恥心から解放されたルシアは呼吸を整えると、小走りで馬車の方へと駆けていく。
ルシアの足音に気付いて、ミーティア姫が此方に視線を向けた。
トロデ王も眠そうな目を擦りつつ、荷台から顔を覗かせる。
「おお、ルシア!!目が覚めたのか!」
「ご迷惑おかけしてしまい、大変申し訳ございませんでした」
ルシアが地面に膝を着いて深々と頭を下げていると、そこにミーティア姫が頭を添える。
「気にするでない!これから先も存分に働いてもらうからそのつもりでな!」
「はい……ありがとうございます」
王族二人の優しさにルシアの瞳から涙が零れた。
少しの間トロデ王達と談笑した後、二人は元来た道へと引き返していく。