この手に届かないのならば
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「きっと、人違いをしているんだと思います。では僕はこれで……」
「そんな!エイト様……!」
立ち去ってしまうエイト様に抱き着くと、そこへあのお供の方がやって来ました。
「もう!遅いと思ったら……何やってんの?」
「ゼシカ!……僕、彼女が好きなんです。だから……ごめんなさい」
そう言って私を振りほどきました。
そしてさも当然のように彼女の隣へ駆けて行きます。
「エイト様……嫌、行かないで……」
私は全てを捨てて貴方を選んだというのに……
貴方はその女と一緒に行ってしまうの……?
ソノオンナトシアワセニナルノ?
その途端、鼓動が高鳴りました。
苦しみと憎悪が私の心を満たしていきます。
剣を鞘から引き抜き、私は彼の女の胸を貫きました。
「ゼシカ!?ゼシカーーっ!!」
力なく崩れる女を抱き起し、必死に名前を叫びます。
血の滴った剣を、今度はエイト様に向けました。
「どうしてもその方が良いというのなら……私は無理にでも貴方様を連れて行きます」
私の背から黒い翼が生えて、月の綺麗な夜をその羽根で汚していきます。
エイト様を闇の鎖で縛り上げて、私は彼を大切に抱えるとその場を飛び立ちました。
彼はずっと抵抗しておりましたが、暴れる度に鎖が身体を締め上げるので、そのうちに動かなくなりました。
これでエイト様は私のものです!
私だけの、ものです。
あれからどれ程の時が流れたのでしょうか。
どうやら私は完全に魔の者になってしまったので、時間の感覚というものを失ってしまったようです。
ベッドの上で虚ろに横たわっているエイト様を抱き起しました。
「……エイト様、おはようございます」
私はあの後、エイト様から四肢を奪いました。
もう、どこにも逃げられません。
私のお世話無くしては彼は生きていけない。
そう、あなたにはもう私しかいないのです。
「ほら、今日もいいお天気ですよ。お散歩でも行きますか?」
「……ゼ、シカ……」
エイト様は私の名前を一度も呼んでくれていません。
譫言のように、あの女の名前をずっと繰り返しています。
忌々しいですが、仕方ありません。
長い時間が経てばいつか私に振り向いてくれるかもしれませんからね。
エイト様のお身体を一頻り愛でた後、私は彼を車椅子に乗せて散歩へ出かけました。
「待ちなさい!やっと、見つけたわ……!」
「……何の御用でしょうか」
私達の前に、ゼシカとかいう女が立ちはだかりました。
生きていたなんて、しぶとい人。
その声を聴いてエイト様の瞳にわずかに光が宿るのを私は見逃しませんでした。
「返して……エイトを返してっ!」
「それはできません。エイト様は私だけのものですから」
エイト様にかけてあった毛布を捲り、彼の美しい姿を見せて差し上げると、彼女は激昂しました。
「なんてことをっ……!!」
「フフフ、美しい彫刻の様でしょう?」
エイト様の首筋に舌を這わせながら挑発すると、女は炎の呪文を唱えました。
私はそれを易々と避け、真っ赤に染まった剣を携えます。
「今度こそ仕留めてあげます」
そうすればエイト様は私を見てくれるかもしれません。
この女さえ、いなければ……!